小噺帖

極小一次創作。よそで作った三題噺や都々逸の一時的集積所。
極小一次創作。よそで作った三題噺や都々逸の一時的集積所。
掴む/彗星/美

掴む/彗星/美

大手各社の格安方針で仕事が激減し、俺達の零細航空会社は別業界に活路を見出した。天国と契約し、あちらの列車を走らせるための線路―飛行機雲を敷くのだ。そこを走る列車はあちら行きの客車が主だが、俺の担当便は貨車だ。前を飛ぶ俺にはあまり見えないが、夜毎満載の星を撒きながら走る様は壮観だ。
恋う/絵の具/表現

恋う/絵の具/表現

少年は落し主不明の鉛筆や消しゴムを拾うのが好きだった。それらを机の上に広げて出かけ、帰ると自由帳が山やら公園の絵で一杯になっている。彼らが自分で描いた絵へ遊びに行くのだというのが彼の説だ。確かに絵はどれもタッチが異なるが、彼が自分で達者に描くのを見た人も大勢おり、真相は判らない。
嗅ぐ/マシュマロ/無神論

嗅ぐ/マシュマロ/無神論

留学生が羊羹を御馳走してくれるというのでダイエットを忘れて訪ねると、文字通り羊の羹(スープ)が出てきた。香辛料の効いたスープを啜りながらてっきり甘い方かと思ったと言うと、それは君が持って来るのかと思ったと笑われた。卓上の花瓶には私の土産のウスベニタチアオイが澄まし顔で咲いている。
切ない/ピン/月

切ない/ピン/月

岬天文台が今日で閉館だ。元は小さな灯台で二階が資料室、三階がプラネタリウム、四階が展望天文台だ。家庭用3Dプラネタリウムが普及し、客など僕ぐらいなのに嫌な顔もされなかった。一階売店で灯台の形の遠華鏡を買い、珈琲片手に四階から夕暮の街を覗いた。手の中に満天の星星が、岬天文台がある。
泳ぐ/骨/慈悲

泳ぐ/骨/慈悲

拾った万年筆が勝手に動き、絵を描き始めた。よく見るとどれも恐竜やら巨大魚類等の生物だ。訊けば万年筆でなく億年筆で、インクは絶滅生物が変質した石炭製とか。まだ絶滅していない生物は描けないらしいが、昨今消えたピンタゾウガメは出てきた。ドードーの絵がない事実は墓まで持って行くつもりだ。
泣く/ミルクココア/根源

泣く/ミルクココア/根源

夢に十八歳程の少女が出、貴方の娘になろうと思うのと言った。古典児童文学の主人公の一人で、ふいと仲間を外された展開が幼心にも理不尽だった。一念発起して撮った「彼女のその後」の自主制作映画がウェブで拡がる頃、彼女が再び夢に出た。庭の四阿でお茶を注いでくれながら彼女は百年分泣いている。
吐く/鉱石/星

吐く/鉱石/星

両親が鉱山労働者で、私は地底を遊び場に育ち鉱山へ勤めた。仕事上りは夜で、頭上はいつも銀河だ。ある日坑道で拾った石は星に似て、なぜか私はそれを呑み終生吐かないと誓った。死後、微かに光る石に導かれ、着いた先には一人の男。憶えがある、前世の恋人だ。彼は天、私は地を巡り、また逢ったのだ。