留学生が羊羹を御馳走してくれるというのでダイエットを忘れて訪ねると、文字通り羊の羹(スープ)が出てきた。香辛料の効いたスープを啜りながらてっきり甘い方かと思ったと言うと、それは君が持って来るのかと思ったと笑われた。卓上の花瓶には私の土産のウスベニタチアオイが澄まし顔で咲いている。
岬天文台が今日で閉館だ。元は小さな灯台で二階が資料室、三階がプラネタリウム、四階が展望天文台だ。家庭用3Dプラネタリウムが普及し、客など僕ぐらいなのに嫌な顔もされなかった。一階売店で灯台の形の遠華鏡を買い、珈琲片手に四階から夕暮の街を覗いた。手の中に満天の星星が、岬天文台がある。
拾った万年筆が勝手に動き、絵を描き始めた。よく見るとどれも恐竜やら巨大魚類等の生物だ。訊けば万年筆でなく億年筆で、インクは絶滅生物が変質した石炭製とか。まだ絶滅していない生物は描けないらしいが、昨今消えたピンタゾウガメは出てきた。ドードーの絵がない事実は墓まで持って行くつもりだ。
夢に十八歳程の少女が出、貴方の娘になろうと思うのと言った。古典児童文学の主人公の一人で、ふいと仲間を外された展開が幼心にも理不尽だった。一念発起して撮った「彼女のその後」の自主制作映画がウェブで拡がる頃、彼女が再び夢に出た。庭の四阿でお茶を注いでくれながら彼女は百年分泣いている。
両親が鉱山労働者で、私は地底を遊び場に育ち鉱山へ勤めた。仕事上りは夜で、頭上はいつも銀河だ。ある日坑道で拾った石は星に似て、なぜか私はそれを呑み終生吐かないと誓った。死後、微かに光る石に導かれ、着いた先には一人の男。憶えがある、前世の恋人だ。彼は天、私は地を巡り、また逢ったのだ。
一年一度しか会えない織姫と彦星、彼らは幸いだ。心中で生き残った僕は天の川の補修材料集めを言い渡された。星の欠片を飲み宙へ放たれる時、地上へ生れ変った恋人の産声がした。七十六年の長旅で体内の欠片が長い尾となり尽きる頃、集めた材料と引換えに、地上の一生を終えた彼女の笑顔が僕を迎えた。
王様は王国のただ一人の国民だった。ある寒い年、王様は小さな王国をくるくる畳んでポケットに入れ旅に出られた。寒い世界を旅して他の王様方と会い、王国を寄せ合って布団代りに被られた。そこへ他の動物や花も入ったので王国は暖まった。その祝いのご馳走、土台に色々寝かせて温めた物が今のピザだ。
山奥の叔父が暫く下りて来ない。私も縁談中で訪ねてゆけず日々が無為に過ぎる。少壮の士官という相手が冷酷としか映らないのは叔父が頭にあるせいだ。あの狐娘は叔父と情を交わしたのだろうか。苛立つ思考はどうどう巡りに沈み、ある晩猫いらず入りの牡丹餅を作った。小豆は旨く炊けたから狐も喜ぼう。