小噺帖

極小一次創作。よそで作った三題噺や都々逸の一時的集積所。
極小一次創作。よそで作った三題噺や都々逸の一時的集積所。
041:デリカテッセン

041:デリカテッセン

 市場の片隅に知らない物売りが店を出していた。下手くそな字で「おさら」という看板が出ており、大小の皿が無造作に積まれている。
 のはいいが、「あまい」「しょっぱい」等々の札で奇怪に分けられている。料理によって使い分けるのかと店主に尋ねると、割れた皿の欠片をくれた。
 戸惑っていると店主がそれを食い始めたので肝を潰したが、食えるのだという。恐る恐る口に入れると、確かにほぼビスケットのような感じだ。しょっぱいのは煎餅製、甘いのはビスケット製、味のないのもある。かき氷なんかは飴製のに盛ればいいそうだ。
 要は、皿洗いがめんどくさい人間のための「食える皿」なんだそうな。
 その横には鉢植えの木があり、こちらも皿だという。巨大な葉がわさわさ茂っており、合点がいった。これは窓から捨てれば自然に還る。
 自宅のシンクの皿の山が現在進行形で巨大化している身としては大変、大変心を惹かれたのだが、「高くつく」という最後の理性(?)が辛うじて私を踏みとどまらせた。
 そう言うと、店主はにやりとして売り場の裏から土鍋と金属鍋を取り出した。どちらも繊細なタッチで見事な模様が描かれ、こんな市場に来る人間の心をピンポイントで射抜くような美しさだ。
「これ、お皿にしても怒られないお鍋。一人暮らしなら、これで毎食OK」

 以来、ほぼこの鍋一個が私のシンクとガス台と食卓を日々行き来している。
 それ自体は満足なのだが、先日、友人知人で催した持ち寄りホームパーティで、ほぼ全員が葉っぱか煎餅か土鍋を皿にしていた。
 あの店主が街を征する日も近いかもしれない。