「頼もう、その布を分けてもらえぬか」
声に振り返ると、思ったより高い位置に相手の頭があり、見上げると天狗だった。
「鼻緒を切ってしもうた」
こちらがたまげる前に天狗がせかせか言葉を継ぐ。その通り、相手の履いている一本歯の高下駄は右の鼻緒がぷっつり切れている。
背の高い理由はこの下駄かとついでに納得しながら、私は腰に提げた手拭いを裂いて渡した。天狗は大仰に押し頂くと、あっという間に鼻緒をすげてしまった。
「いや、かたじけない。急ぎの旅での」
どちらへ、と問うと、
「西へ。今月はわしが月番での、めるくりうす殿に引き継がねばならぬ」
「何を」
「この地の球を」
言うなり天狗はわっと駆け出し、大きく風が巻き起こった。
と思うや、足元の地面がみしりと動いた気がした。それは一瞬のことだったが地震とは違う、まるで――
まるで、乗り物が動き出したような。
とまで思って、思い当たった。
この地の球を、ちょうど玉乗りのように足下で蹴転がし、神仙たちが回していたなら?
……わしが月番での、めるくりうす殿に引き継がねばならぬ。
自然、天狗の消えた西へ目をやれば、彼方の空は紅い手拭いの鼻緒に似た夕焼。
END