小噺帖

極小一次創作。よそで作った三題噺や都々逸の一時的集積所。
極小一次創作。よそで作った三題噺や都々逸の一時的集積所。
深海/チェス/腰痛

深海/チェス/腰痛

乙姫と人魚姫の将棋対決が今年も始まった。よく訓練された色とりどりのタツノオトシゴを駒に、一進一退の攻防が続く。終盤、敵陣に攻め込んだ乙姫側の飛車がついに王手をかけ、勝負有りと思われた時、人魚姫側の王将が出産を始め、大量の子(歩)が盤面を埋め尽くして形成逆転に見えたが、二歩で失格。
太陽/ポケット/夜は短し

太陽/ポケット/夜は短し

太陽派に敗れた月派は地下に潜り、宿敵が彼らを忘れ去り隆盛を極める中再び動き出した。頭上の炎天に怯えつつも彼らは隠し持った月型のシールを街の路地裏という路地裏、物陰という物陰に貼り回る。やがて陽が落ち、怨敵の力たる日光を存分に蓄えたシールはこの世ならぬ月光となり地上を燦然と満たす。
背伸び/青空/ひとりぼっち

背伸び/青空/ひとりぼっち

死んだ母親へ会いたさに少年の背はどんどん伸びた。村じゅうの大人も家々の屋根も追い越し、遂に雲の上へすぽんと頭が出た。そこは眩いばかり真っ青が広がるだけの世界で、下を向いても雲に阻まれ村は見えない。彼の涙は下界で雨となって植物を巨大に育て、親友のジャックは彼を目指して豆の木を登る。
後悔/桃/美

後悔/桃/美

山奥の叔父と狐が帰るのを見送る。猫じゃ猫じゃと仰言いますが…ほろ酔いの叔父が踊る。夜風は頬に快く、満月が綺麗だ。婚約者の失踪に周囲が沈む中、お前は優しいから良い人に出逢えるよと叔父は言う。私の本命は叔父だ、それも狐と幸せで居る叔父だ。オッチョコチョイのチョイ、宵闇に手指が翻った。
切ない/階段/醜悪

切ない/階段/醜悪

昔の部下が息を吹き返した。心を読み舌打ちする。女共め。全員潰そうと部下の顔面を掴む、その手の下で奴が笑った。こいつ、こんな貌が出来たか。だが遅く、流し込んだ能力は狐妻を通じ天ガ下の狐全てに分散されていた。総大将ハ狐ヲ襲フ可カラ不。掟を破った報いに狐達の能力がどっと流れ込んでくる。
勇気/湖/女教皇

勇気/湖/女教皇

狐なので連れ合いに何かあれば判る。どっと脳に流れ込むのは良人の苦痛だ。ああ、あの人が殺される。床でのた打ちながら声を上げると、自分を抱き上げる腕。良人の姪だ。途端じわっと楽になった。まさか、これが彼女の能力か。考える間もなくその能力をそのまま良人に流した。どうか間に合いますよう。
傲慢/オパール/根源

傲慢/オパール/根源

昔の部下と呑む。思い詰めた顔で、口を付けた酒が減らない。こいつの能力は人間の中でも強く、その姪を娶ってこいつも配下にすれば狐と人間双方を支配出来る。が、大戦中死ぬ程上下関係を叩き込んだにも関わらず姪のために逆らう気らしい。話し出そうとした部下の頭がぐらっと揺れる。毒酒だ、莫迦め。
びびる/金木犀/恋人たち

びびる/金木犀/恋人たち

山奥の叔父が私の婚礼で家へ来た。狐も一緒で、婆やは鼠を捕るならと鷹揚だ。明後日に宴を控えた夜、叔父に呼ばれた。今から出かける、式までに戻らない時はこの手紙を兄に渡してくれ。決して狐の側を離れてはいけないよ。叔父はそのままふいと家を出、狐がじっと見送る夜道に金木犀が濃く匂っている。
黒猫/雪/自己防衛

黒猫/雪/自己防衛

老兵の話では、昔の政変で失脚した将軍の愛妾の少女が捕まり例の物置で将軍の居所を尋問された。反乱側は新雪の蒼い陰でもって染めた特注の拷問服を彼女に着せたが、彼女が文盲の唖者と判ったのは凍死後だった。猫のように丸まって寄り添う少女の体の冷たさに顔色も変えず、少年兵は文字を教えている。