小噺帖

小噺帖

極小一次創作。よそで作った三題噺や都々逸の一時的集積所。
極小一次創作。よそで作った三題噺や都々逸の一時的集積所。
青/煙/数式

青/煙/数式

彼女が真っ青なコートを着せられたのは短気なせいだ。曇り空の多いこの街には始終かっかと火を吹く彼女は熱過ぎた。これで落ち着くだろうという周囲の声に彼女の苛々は加速度的に増す。あたしはぱっと明るい赤がいいのに。と、街ですれ違う一人の男。曇天にも鮮やかなそのコートは彼女の焦がれた赤だ。
嫉妬/雪/甘党

嫉妬/雪/甘党

やたら物置へ行きたがる少年兵を、すわ憑かれたかと先輩兵士は部屋へ閉じこめた。翌朝は真夏だというのに一面の霜、草花がみな黄色く霜枯れた。彼女の仕業だ、文字を教える約束をしたのに行かなかったからと少年兵が言い、葉を指さした。葉の一枚一枚についた傷は確かに、下手くそな文字にも見える。
青/雪/はつこい

青/雪/はつこい

幽霊話のある兵舎の物置へ度胸試しに放り込まれた少年兵が翌朝、真夏だというのに凍死寸前で見つかった。なんでも、青服を着た見知らぬ娘に、氷のように冷え切った躰で抱きつかれたそうだ。お前逃げなかったとこを見るとまんざらじゃないなと笑う先輩に少年兵は顔を赤らめ、寒そうだったのでと呟いた。
蝶/星空/ぽつり

蝶/星空/ぽつり

今年も蝶がひらひら寄ってきた。羽を見ると私宛ての恋文である。戦に取られ死んだ前夫からだ。お前が恋しい時は蝶に心を託すなどと柄にもない事を言ったせいか虫けらのような最期だったそうだ。今の夫と結ばれたいばかりに前夫を戦に出したのは私だ。まとわる蝶は目をつぶっても闇にちらつき離れない。
(都々逸)

(都々逸)

合格祈願と黒々書いた文字のぶんまで重い絵馬
はいしいはいしい歩めよジイジ腕白大将乗せてゆく
富も平和も偏る世界襲う爆風だけはフェア
怒らないで/悪趣味/トランス

怒らないで/悪趣味/トランス

また水上の人間どもが人身御供の娘をよこした。仕方なく私は泣いている娘を連れて洞穴を抜け、花畑へ赴いた。ここには代々の人身御供を住まわせており、果実も花の蜜も好きなだけ採れる別天地だ。彼らは私を神と慕うがその名は私には重い。確かに私はこの川に棲んでいるが大水を鎮める力などないのだ。
刃物/三つ編み/夜は短し

刃物/三つ編み/夜は短し

晴天からお下げ髪が長々と下がっていた。引っ張るとカチリと音がして夜になった。仕方なくよじ登った髪は一人の女に繋がっており、彼女が太陽なのだ。その美しさに迷い、地上へさらおうとしたが捕まった。かくて天の火を盗んだ私は、切り落とした彼女の髪で岩に繋がれ、鳥どもに内臓をつつかれている。
色白/メール/サヨナラダケガ

色白/メール/サヨナラダケガ

友人が若くして世を去った。突然すぎて言葉が無く、白紙の手紙を棺に入れた。その返事でもあるまいが、葬儀の日は雲一つない快晴だった。そのまた返事にと、月命日には花火を上げており、翌日は必ず虹だ。一度だけ虹が出なかった日がある。前日は空いっぱいの羊雲、どうも花火の手紙を食ったらしい。
かくれんぼ/噛み癖/綱渡り

かくれんぼ/噛み癖/綱渡り

鳥と獣が戦になり、双方から支援要請を受けたコウモリはやむなく一族を二つに分けて応じた。戦後この苦肉の策を咎められ両陣営から石もて追われたコウモリは、自分たちの取り分は必ず貰うと言って身を隠した。以来コウモリは夜になると動き出しては鳥の餌の果物をかじり、獣の血を吸って生きている。
NEW ENTRIES
俳句(01.06)
掌編(01.05)
029:デルタ(12.03)
066:666(12.01)
菓子三題噺9(09.13)
菓子三題噺8(09.13)
耳/窓際/綱渡り(09.11)
三題噺(05.26)
菓子三題噺7(05.13)
三題噺(05.13)
TAGS
お題 もらったお題 三題噺 掌編 短歌 短編 都々逸 俳句 琉歌
ARCHIVES
LINKS
RSS
RSS