小噺帖

極小一次創作。よそで作った三題噺や都々逸の一時的集積所。
極小一次創作。よそで作った三題噺や都々逸の一時的集積所。
秘密基地への旅

秘密基地への旅

 冷たい石壁に背を押し付けて、おれは今日も本を読んでいる。
 横に置いた壊れかけの木箱には、今まで集めた本が大きい順に並べてある。中身は色々だ。知らない言葉ばかりのもあれば、外国の文字のもある。食べ物や動物の写真が沢山あるのは気に入りだ。ばあちゃんが話すみたいな昔話も。
 端っこの一冊は特別だ。文字が一つずつと、その字を使った絵が描いてある。それでおれは文字を覚えた。元々はここの五号室の子供の持ち物だった。
 おれたちのリーダーが悪い政府を倒して、今は新しい国作りの真っ最中だ。
 この牢屋には悪い金持ちや政治家を閉じ込めている。囚人の持ち物はおれたち牢番で分けていい。大人の牢番は服や腕環やお金だけ取って、偉い奴になれよとおれに本をくれる。囚人は時々どこかへ連れていかれて二度と戻らないけれど、すぐに別の奴が来るので、俺の本もちょっとずつ増える。
 大人たちが囚人をみんな連れていく昼間、おれは廊下の隅の本箱まで駆けていき、銃声を遠く聴きながら本を開く。ことわざの本には「奪ったパンは苦い」と書いてあるけれどよく分からない。パンも鶏肉も牛乳も、おれは牢番になって初めて食べた。
秘密基地への旅

秘密基地への旅

 川沿いの土手で足を止め「秘密基地への旅」というアプリを開く。
 本日の歩数、9173歩。万歩計だ。
 このアプリには育成ゲーム機能が付いている。仮想の秘密基地を作れるのだ。
 歩数をそのままゲーム内通貨として、建物のパーツや家具を買える。壁から棚、小物に至るまで家一軒が丸ごと揃う。
 貯めた歩数を幾らか使い、屋根を買った。和風、洋館、民俗調、SF風、あらゆるパーツが並ぶ中、私が選んだ屋根はよくある瓦葺きだ。壁も窓も引戸も今の流行りとは程遠い。が、これでなくてはならない。
 スマホをポケットに突っ込み、夕暮れの土手を歩く。残り827歩。家路に丁度いい。
 このアプリにはもう一つ特徴がある。その日の歩数が10000にならねば、どれほどパーツを買おうと自分の秘密基地へはアクセスできないのだ。
 私の作る秘密基地は、私の生まれた家だ。
 何十年も前に空襲で焼けた家だ。
 健康のためにと孫が入れてくれたアプリは、思い出でしかなかった故郷をこの手の中に生んだ。
 いつの日か10000歩の果てにその家へ、亡くした人々へ、辿り着けはしないだろうか。目を細め、私は夕陽の先を見据える。
(都々逸)

(都々逸)

私のふるさと東の北で雪に透けてる街灯り
世界半分滅んだみたい君が遠くへ行った朝
走り始める電車の窓の故郷へ眼鏡をかけ直す
ビンタ一発浮気の面へザマミロ私はもう自由
もしも鳴き声ホーホケキョなら飼ってみたいなハト・カラス
落選通知のしょっぱい味は次へ挑めというエール
文字/鳥/いたちごっこ

文字/鳥/いたちごっこ

王は威厳を示すため山頂に自分の像を建て、日ごと像の影は王の威容と共に国を覆う。ある日誰かが反対の山に巨大な鏡を置き、陽光は像の影を城まで反射した。鏡には毎日落書きされ、像の影に台詞やら天使の羽が付く。王は面白がり、巨大な鏡を作らせて政策や座右の銘を書き、毎日毎日国中に反射させた。
(都々逸)

(都々逸)

森のようです花壇を埋めて風に揺れてるチューリップ
帰ろう帰ろう仕事は終わり仕事で落ち込むのも終わり
怪我なく事故なくまた日が暮れて今日も一日偉かった