家の鍵を無くした。仕方なく友人宅に一週間泊まり鍵を換えて帰ると中に痩せた貧乏神がいた。留守中に非常食を食い尽くしており、お帰りなさいませ何か作れと図々しく三つ指つくのを放り出したが、独居会社員で定時に帰れるのはお前位だから行く宛がないと、どっちが不幸か判らないような事を言われた。
雨は嫌いだ。傘に篭って道行く人が人に見えない。ある傘はその下に一叢の薔薇を咲かせ、別の傘は二本脚の兎を宿し、或いは見知らぬ街並みを覆い、静々と雨中をゆく。それが各人の前夜見た夢の有様と知ったのは、傘の下の友人が化物に見えた日だ。見た夢を憶えていられないこの私はどのような姿だろう。
狐なので人語は解さないが心を読め、良人の姪が訪ねて以来良人に茗荷を出している。想う人を狐に取られ望まぬ結婚を控え、姪は自分に一服盛ろうとまで思いつめたらしい。良人を返そうと思ったが離れ難く、せめて自分を忘れさせたかった。だが同じく心を読める良人が噛む花の名…勿忘草を狐は知らない。
山奥の叔父は私の牡丹餅に相好を崩し、案の定重箱を狐娘に預けた。彼女はぺこりと一礼して下がり、程なく奥から三匹程が重箱をあさる音。弟妹狐だ、迂闊にも忘れていた。毒餅などやめて本当に良かった。総身に冷や汗で顔を上げると叔父と目が合った。途端、何かが私の中で切れ、どっと涙が堰を切った。
大手各社の格安方針で仕事が激減し、俺達の零細航空会社は別業界に活路を見出した。天国と契約し、あちらの列車を走らせるための線路―飛行機雲を敷くのだ。そこを走る列車はあちら行きの客車が主だが、俺の担当便は貨車だ。前を飛ぶ俺にはあまり見えないが、夜毎満載の星を撒きながら走る様は壮観だ。
少年は落し主不明の鉛筆や消しゴムを拾うのが好きだった。それらを机の上に広げて出かけ、帰ると自由帳が山やら公園の絵で一杯になっている。彼らが自分で描いた絵へ遊びに行くのだというのが彼の説だ。確かに絵はどれもタッチが異なるが、彼が自分で達者に描くのを見た人も大勢おり、真相は判らない。