小噺帖

極小一次創作。よそで作った三題噺や都々逸の一時的集積所。
極小一次創作。よそで作った三題噺や都々逸の一時的集積所。
029:デルタ

029:デルタ

 聞き取れない言葉でお喋りしながら行き過ぎる中学生の一団は、かに座星雲からの修学旅行生だ。その横で、アルタイル星系からの研究者と地球の天文学者がデバイスを覗き込んでいる。
 地球が他星からの旅行者を受け入れるようになって、実はしばらく経つ。そのことは一般公開されておらず、また受入対象も今のところ、彼らのような学生あるいは研究者に限られている。
 知的生命体のいる星は数多いとはいえ、宇宙の辺境たる天の川銀河内では地球ぐらいで、これまで他星の興味を惹くことは皆無だった。が、ここしばらく、(おのおのの星から見た)星座の星を巡るツアーが全天でブームとなった。太陽を星座の一部に含めている星がいくつかあり、その流れで地球にも外宇宙の客人が来るようになったのだ。とはいえ文明の発達度もまだまだ低い地球のこと、当面は学術的交流に留めておこうということで、地球側と宇宙観光協会の見解が一致し、今に至る。
 太陽は、アルタイル星系文明から見ると「いしぶえ座」(という楽器がある由)の足ノズル(?)であり、かに座星雲方面の星系文明では「雪の大結晶」の一角を成すらしい。中学生たちが描いてくれた大結晶の天文図と、地球の受入スタッフが描いたカニの絵が交換され、カニとは似ても似つかぬ、水とカンラン石の中間のような中学生たちがきゃっきゃっと笑う。
 アルタイル星系の老学者によると、かの星は現在、超新星爆発の最中だという。幸いそこの全生命体は数世代かけて安全な他星系に移住を終えており、それを生涯の仕事としてきた彼は、引退後の趣味として星巡りをしている。アルタイルを星座にしている文明は全天で三十七、地球が最後だそうだ。
 ――よその星からならまだ肉眼で拝めますし、うちの星を覚えてていただいてるわけですからね。ありがたいですよ。
 そう言って彼は、冬の大三角形を写真に収めた。