掌編 | 小噺帖

小噺帖

極小一次創作。よそで作った三題噺や都々逸の一時的集積所。
極小一次創作。よそで作った三題噺や都々逸の一時的集積所。
掌編

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 帰り道、盲目の謡唄いの先生は聴き慣れぬ音を追って路地に入り込み、何かとぶつかった。実のところそれは音楽ライブ用の楽器ロボットというかロボット式電子楽器で、何らかの音楽らしきものを感知すると搭載AIがそれに合わせて即興で音楽を生成し、再生するのだ。つまりここは少々遠い未来で、型落ちになったロボットが不法投棄されているのだった。
 相手を触ってみて、どうやら人の形をした作り物であることを理解した先生は、供養のため琵琶を鳴らしてみた。と、辛うじてバッテリーの残っていたロボットが感知して別パートを奏で始める。先生は肝を潰したものの、すぐにそれがさっき聞こえてきた音であることを了解し、愉快さが勝ってそのまま唄い始めた。それに呼応してロボットが新たな旋律をかぶせる。
 実のところこの時代の人間は汚れきった大地を捨てて宇宙へ旅立っており、二人の奏でる謡がこの地上最後の音楽なのだった。即興ライブが終わり、どういう理屈からか先生が元の世界に戻り着いた頃、ロボットはたった今の演奏を保存し、有効状態になっていた自動再生機能で再生した。それを遠い空の人類が聴くことはついに無かったが、大地を人の手からやっと取り戻した黄泉のもののけたちがその周囲で舞い踊る。その筆頭は先生――もちろんとっくに彼岸のひとりとなった、この時代の先生だ。かくて電子と魍魎が幾重にも呼応して謡は無限に層を重ね、ヒト無き世界を彩ってゆく。
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