人類はロボットに追い詰められ、滅亡の危機に瀕していた。とはいえ反乱ではなく、広い意味で人類が望んだ結果ではあった。
当初は戦争用の自律式兵器だ。敵方での使用が確認されるやもう一方も自陣にそれを導入し、とめどない殺し合いになる。戦況が長引くにつれ、致命傷を負った兵士や民間人に対して安楽死ロボットが使われるようになった。情勢は混沌の一途を辿る。鹵獲された自律式兵器がかつての味方側に照準を合わせ、ハッキングを受けた安楽死ロボットが周囲の人間を無作為に狙う。
かくて、程なくどの陣営においてもロボットは「敵意ある敵」「敵意ある味方」「慈悲ある味方」「慈悲ある敵」の四通り以外の意味を失い、そのいずれもが人間狩りにおいて等しく勤勉だった。
さして長くもない成り行きのその果て、人類史最後の一人の傍らに控えるのが正常な安楽死ロボットだったのはさすがに神の慈悲かもしれなかった。もはや生きる意欲とて無く執行を待つ彼/彼女の目に映るのは、荒れ果てた市街を割ってしたたるばかりに伸びゆく植物、そして「万物の霊長」に目もくれずに傾いた廃デパートを闊歩する動物たち。終わったのではない。始まったのだ。単に人類抜きで。
最後の一人がいなくなり、標的を失ったロボットたちも同時に終わりを迎えた。