095:ビートルズ どうしようもなく参った時に楽器を作っては鳴らしているので、彼の家は楽器だらけだ。仕事が終わらない時。人ともめた時。三日連続で終電を逃した時。呻きは笛となりすすり泣きは弦となり歯軋りは打楽器となり、声色でなく音色でもって空気を震わせた。 住んでいるアパートが区画整理で壊されると決まった夜、彼が紙箱で作った輪ゴムギターの音に、アパートじゅうから楽器たちの音が和する。トランペットは隣人だし、鳩笛は下の階の老人だし、手拍子は若夫婦だし、瓶を叩くのはたぶん大家だ。