彼は車を公園前の路肩に停めた。車は寒かったが、家はもっと寒いはずだった。家では犬が彼の帰りを待っているはずで、散歩道はがたがたのはずだった。
仕事を終えて帰る前に、車をここに停めて一息入れるのが慣いだった。この時のためだけに、多くない稼ぎからいつもとっておきのお菓子を買っておいてあった。好きな店のクッキーだったり、外国のグミだったり、地元の駄菓子だったり、とにかく長い仕事と寒い家を忘れるものなら何でもよかった。
今日はスーパーのドーナツで、カラースプレーがザマアミロとばかりに乗っていた。ザマアミロたちの色合いは身勝手で、そのわりに歯応えは静かだった。受けた手にぱらぱら落ちるザマアミロは暗がりでも元の色合いが知れた。見えなかったが知れた。そこが彼の気に入った。食べ終わってもその色合いたちはいっとき彼の意識に残り続けた。
やがて彼は膝をぽんと打つと、エンジンを入れて家へ帰った。家は寒く、散歩はしんどく、犬はうっとうしく可愛かった。