女子生徒が校内に小さなキャンディ缶を持ち込んだので注意したところ、中身は大小様々な石ころだった。部活動の一環だという。彼女は帰宅部のはずだが。
活動を見せるというのでついて行くと、図書室のカウンターの隅に彼女は例の小石を並べ始めた。ためつすがめつの末に完成した石の並びを言われるままカウンターすれすれの高さから覗くと、奥の窓の光をうけたそれはまるで夕暮れの街だ。その「風景」を彼女はスマホの写真に収め、SNSに上げる。アカウント名「国々」。この「部員」たちの共同運営といい、似たような写真が何枚も何枚も投稿されていた。貝殻の群島。木の葉と実の森。布切れとコルクの部屋。
魅入る私に、先生こういうの好きでしょ、顧問になってよと彼女が言う。ばれていたか、ポケットの中のシャンパンチェアが。
頷くと中庭へ案内された。花壇の隅に全部員が一つずつ「物」を置いた「街」があり、そこへ何かを置くのが入部の証という。覗いて息を呑んだ。どんぐり、鉱石、陶器片に貝殻、数知れぬがらくたが数知れぬ輝きで並び、一つの巨大な街を成す。
その一隅に、私は恭しさをもって自作のシャンパンチェアを据える。
広告会社は悪魔と契約し、必ず視聴者の目に入るCMを作って貰った。悪魔の作ったホラー映画のCMをオンエア中に見逃した視聴者はTVを消した後、カーテンの、白壁の、布団の上に幽霊を幻視した。大クレームを受けた悪魔は食品のCMを作り、見逃した視聴者はカーテンの、白壁の、布団の上にアイスを幻視……
薄皮一枚隔てた先でたぶん世界は美しい
無理に青空見なくていいようつむく地べたは花盛り
花壇の隅で同級生の女子がダリアを鍵盤代りに弾いている。花弁一枚一枚の音色はカリンバの繊細さだ。蛍袋を撫でるとガラスの反響。すげえな、俺の声に彼女はありがとと答え、俺の髪に触れた。雪の音さながらさざめく髪は校則無視の赤で、いい音ねと褒められた照れ隠しに毟った四葉で彼女は小曲を弾く。
夜、カーテンを閉め切り照明を落とし、旧い角灯に火を入れる。途端私の姿は消え、入れ替りに無数の影が壁に踊る。ヒトの影だけでない、ネコやトリ、巨大なサカナ、目に見えぬほどのムシも。彼岸に渡れぬ幽霊を角灯に招き、灯が落ちるまで躍らせてやる。その間私はどこでもない境目で雨音を聴いている。
ふたつの国は国境を高い石壁で隔てていた。いつからか、なぜか、誰も知らないが、どちらの国もお互いが嫌いだった。壁は目の届く限り延々と延び、いっさいの行き来を遮っていた。
その壁には小さなドアが造られている。最初に気づいた誰かの名は分からない。ごくごく親しい人の間でそっと伝わってきたからだ。ともかくドアは大人が腰を屈めてやっと通れる小ささで、落書きの中に巧みに隠されていた。
ドアの向こうは相手の国でなく、細長い庭だった。実は壁は二重になっており、そのあいだに一つの庭が国境の長さだけずっと続いていたのだ。庭を訪れた人は咲き誇るバラのアーチをくぐり、木漏れ日の下に憩い、まれに誰かに出会えばそっと会釈した。そしてごくごく親しい人にだけ秘密を明かし、誰にも言わぬようにと口止めした。
もしや相手の国にも同じドアがあり、今すれ違った人は敵かも。いや、ふたつの国の者たち全員がこの庭を知っているのかも。と、実は誰もが思っているが、誰も口には出さない。
片方の国の大統領ともう片方の国の将軍は、くたびれたシャツを着て庭のベンチで水筒のお茶を交換する仲だ。お互い、相手の名は知らない。
沼の水を飲むと山に取られる。噂を面白半分で試したが何も起きず、拍子抜けして戻ると村は廃墟と化していた。スマホは不通、住民?も得体の知れぬ服で顔貌も言葉も歪んでいる。逃げ戻った山中で迷い込んだ集落の人々はまともだが全員が水を飲んだとか。ここ以外の全人類には僕らが歪んで見えるそうだ。