冷たい石壁に背を押し付けて、おれは今日も本を読んでいる。
横に置いた壊れかけの木箱には、今まで集めた本が大きい順に並べてある。中身は色々だ。知らない言葉ばかりのもあれば、外国の文字のもある。食べ物や動物の写真が沢山あるのは気に入りだ。ばあちゃんが話すみたいな昔話も。
端っこの一冊は特別だ。文字が一つずつと、その字を使った絵が描いてある。それでおれは文字を覚えた。元々はここの五号室の子供の持ち物だった。
おれたちのリーダーが悪い政府を倒して、今は新しい国作りの真っ最中だ。
この牢屋には悪い金持ちや政治家を閉じ込めている。囚人の持ち物はおれたち牢番で分けていい。大人の牢番は服や腕環やお金だけ取って、偉い奴になれよとおれに本をくれる。囚人は時々どこかへ連れていかれて二度と戻らないけれど、すぐに別の奴が来るので、俺の本もちょっとずつ増える。
大人たちが囚人をみんな連れていく昼間、おれは廊下の隅の本箱まで駆けていき、銃声を遠く聴きながら本を開く。ことわざの本には「奪ったパンは苦い」と書いてあるけれどよく分からない。パンも鶏肉も牛乳も、おれは牢番になって初めて食べた。