かくれんぼ/カッター/三秒間
ナイフの柄に彫られた祖先のトーテムは私の代で意味を失うのだろう。どこかから来た人々に追いやられ私たちが移住した先は疫病の巣で、全員を滅ぼすのに時間は要らなかった。ナイフを地に突き立て、私は力尽きるまで祖先の来歴の歌を囁き続ける。ナイフは墓でなく、聴き役でもなく、私たちそのものだ。
メモ/いじわる/三秒間
女王が意に沿わぬ村を罰したのは事実だが、石臼で村人全員を挽いたなど流石に嘘だ。手間が大きすぎるし働き手も減る。その成り行きを記した書は滅ぼされ、そもそも言葉も禁じられた。読む者とて無い石碑のかけらはビル街に埋もれ、また別の戦で焼かれては掘り返され、埋もれを繰り返し幾星霜かになる。
煙草/爪/七転び
莨入れは借金のかたに取られた。本来は身の周りの品を全て自分たちで作り、金銭など必要ない暮らしだったのが、それを野蛮と言われ貨幣経済に巻き込まれた。莨入れは父の父のまた父から受け継いだもので、熊の神の来歴の物語が文様で描かれている。借金取りは何と言ってあれを子に受け継ぐのだろうか。
財布/悪趣味/やきもち
地元に伝わる文様はもはや観光資源であり、主に多数派民族が製造権を握っている。かつて手縫いされたそれらを今は大工場の機械が大量生産し、果てはAIが流行りに合わせた新柄を考えているそうだ。古ぼけた色の巾着は祖母の手縫いだが、図案はどこかの会社に特許を取られ、絵柄の意味を知る者もない。
ベッド/ポケット/七転び
古着屋で買ったバッグはエスニックの布製で、何色もの太い糸がジグザグ模様を織りなしている。古物市で買った品々を入れたところそれらが喋り出し、僕が完全な話を覚えるまで黙らないという。いずれも文字を持たないか文字の現存しない言葉で、僕はそれらを連れて旅の空に欠けた来歴を訪ね歩いている。