小噺帖

極小一次創作。よそで作った三題噺や都々逸の一時的集積所。
極小一次創作。よそで作った三題噺や都々逸の一時的集積所。
三題噺

三題噺

蝶/ピアス/駄目なひと
現職は広大なゴミ屋敷の清掃だ。何せ宇宙戦争で住民が全滅した星を丸々片付けるのだ。狭い星じゅう瓦礫だが短期間で壊滅したためさほど汚染はなく、環境汚染で母星を壊した我々地球人が紹介された中で唯一マシな移住先なので是非もない。こんな地にも生態系はあるらしく、蝶一匹がまるで灰燼の宝石だ。

不幸/ピアス穴/バタフライエフェクト
瓦礫撤去が半ば済んだ星を宇宙政府は他に移れという。例の蝶は地球由来の希少種で、地球では汚染で既に絶滅、宇宙でも希少性から奪い合いが戦争になった由。この星は蝶に与えられ、地球人始め全宇宙人立入禁止となる。人類への、これは蝶の復讐か、旧星人の呪いか。何も知らぬ蝶の飛び立つ姿は美しい。
三題噺

三題噺

深海/チェス/ぽつり
銀河の彼方より飛来した宇宙船団が外交相手に選んだのは鯨だった。万物の霊長を自認する人類をハブって協定成立、ゲームや合唱、どうやってか貿易や交換留学などなど交流は盛り上がっている様子だが、やり取りは全て人間の可聴域を超える音波に乗った未知の言語に基づき、人類に介入の余地は未だ無い。

背伸び/爪先/恥ずかしい
銀河の彼方、地球とか言う辺境の星から生物引取依頼が届いた。国交のない星からの話は通常受けないが、見れば地球は星自体随分小さく、件の生物は地球民には巨大怪獣、しかも一匹限りの突然変異だ。引き取った方が幸せだろうということで「怪獣」は宇宙動物園の小動物ふれあいコーナーで愛されている。
三題噺

三題噺

煙草/乾き/シュレディンガーの猫
家の老猫が隣の犬を呪うとか。追いかけ回され車に撥ねられかけたからだそうだ。どこで覚えたのか尾を二股に割りドロドロ言う煙幕付きで突撃していったが、大喜びで尻尾を振るテキに迎えられ、尾の数が自分より圧倒的に多く見えるとの理由であえなく敗走。屈辱で霊力が増しており別の意味でなんか怖い。

嘘/白衣/猫も杓子も
何に倣ったか尾を九本に増やした老猫が隣の犬にリベンジを計る。が、やはり大喜びで出迎えたテキは誰に習ったか頭が三つに増えており、三つの頭に尾を三本ずつ追われて現場は大混乱である。ほうほうの体で逃げ帰ってきた老猫は作戦を変えるとかで僕の部屋にこもり、何やらブツブツ本を読んでいて怖い。

かくれんぼ/煙/猫も杓子も
何で読んだか老猫が隣の犬小屋の鋭角の屋根に狙いを定め、そこから青黒い煙が立ち昇るや犬を置いて脱出。しかしテキは鼻の効く生物のこと、刺激的な悪臭が漂いだすや三つの頭でハクションを連発、風圧と鼻水で煙はあえなく霧散した。物陰から一部始終を目撃した老猫はついに全面対決を決意。もう怖い。

月/マフラー/シュレディンガーの猫
いつの世のつもりか、月夜に老猫は正体不明のヒーローよろしくマフラー姿、隣近所の猫共お誘い合せで出陣。迎える犬が月光に吠え、方々の犬共も呼応し正に一触即発。しかし犬を嫌う猫の気持ちと猫と遊びたい犬の気持ちが重なって両立、めんどくさくなった猫が解散して無効試合。老猫が不貞腐れて怖い。

カーテン/茶髪/猫かぶり
やけになったか老猫が正攻法とて隣家にカラ身で突撃。犬猫交えてギャオンギャオンが始まった。と、出てきたのは隣家の美人お姉さん、「あらあらどうしたのー」の声に犬猫同時にお腹を出して全面降伏。臆面もなく可愛がられる姿を窓から呆然と見る僕に気づいた老猫が睨んできた。次の標的は僕か。怖い。
三題噺(完結)

三題噺(完結)

首筋/小鳥/不意打ち
誰も知らなかったが政変は終わっていなかった。かつての将軍派の流れをくむ者たちが北部で突如叛旗を翻し、首都目指して進軍中という。こちら東部の最果てに報せが入ったのは三日後で、ここまで飛び火はせんだろうと他の兵士は呑気だが、それ以来蒼服の少女を見た者がおらず少年兵はじりじりしている。

制服/小鳥/不意打ち
しかし東部の砦への襲撃は迅速だった。クーデターを察知した現指導部が密かにこの東部を抜けて隣国へ飛んだのだ。兵舎を占拠した旧将軍派は兵士たちに現指導部の行方を吐かせようとしたが、知る者はなく、業を煮やした旧将軍派は見せしめとして戦場の沈黙でもって染めた特注の拷問帽を少年兵へ被せた。

刃物/前髪/不意打ち
首から上を拷問帽にすっぽり覆われ、物みな死に絶えた沈黙を聴かされた少年兵が失神する寸前、縛られているはずの掌に冷たい何かが触れた。何かは手の上をそっと滑る。それが「ゆき」という字なのを少年兵は感じた。蒼服の少女に教えた数少ない字のひとつだ。ゆき。ゆき。死の沈黙は雪の静寂へ変わる。

バイク/前髪/不意打ち
少年兵が拷問帽を外された時、周囲の旧将軍派はみな凍死寸前で捕縛されていた。時同じくして、首都の旧将軍派も同様に凍死寸前で壊滅との急報が届いた。なんでも、旧将軍派はかつて一人の少女を囮に逃げ、彼女を殺したのが現指導部だと、議事堂の壁に氷で拙い文字が残っており、どうしても消えない由。

怒らないで/指輪/不意打ち
少年兵は少女に残りの文字を教えている。何せ教える側も教わる側も素人とて時間が要りそうだ。旧将軍派も元指導部も体制を立て直せず、首都では連合野党が議会制整備中とか。東の砦も解散の噂があるが先行き不透明で、兵でなくなるかもしれない少年兵は少女に掛けた自分の上着を春の陽光で染めている。
菓子三題噺 幕間

菓子三題噺 幕間

餅/噛み癖/癖
囲炉裏で炙った餅へ丹念に砂糖醤油を塗しながら、老主人は自分の死後この家を引き取れと縁起でもない。毎度なので聞き流しつつ餅に食らいついていると、君は菓子職人だからきっと活かしてくれると言う。彼の余命はさておき、確かにこぢんまりしながら風格のある家だ。お客様が寛いで菓子を楽しめよう。
菓子三題噺6

菓子三題噺6

ココア/白衣/サヨナラダケガ
ガラスケースの二段ケーキの表面をマーブルチョコが埋め尽している。カラースプレー付きドーナツを連想したがスケール段違いだ。最近こんな注文が多くてとパティシエは苦笑だ。人気店なのだ。お嬢さんは? 本題を切り出した僕に、また家出と相手は顔を顰める。先日彼女を裏カフェごと補導したのは僕だ。

ココア/鳥/恥ずかしい
娘さんが裏カフェ店主のビニールハウス周辺で目撃されたという情報を僕はパティシエに伝えたが、行方不明中の屋台の塗装に既視感があることは言えなかった。捜査継続を約して帰る際にケーキを勧められたが、残念ながら公務員の身とて丁寧に辞した。ココアとマシュマロどっちが先かはついに聞き忘れた。
菓子三題噺5

菓子三題噺5

ベッド/前髪/蜂蜜
眼前にホットケーキが座布団よろしく山積みになっている。いやパンケーキか? とにかく相手は裏カフェ主人と名乗った。いや店主? 混乱をよそに店主は力を借りたいと言う。植物園の植物をみな移し、菓子を植物から育てる計画とか。カカオも? 当然。スパイスも? 無論。蜂は? いいよ。チャンス? 何かの罠?

黒猫/ピアス穴/蜂蜜
承諾の印に引き寄せたパンケーキは全部色違いで、琥珀糖のイメージだという。上の絵柄はどうしてかタコでどうしてかブルーベリーの紫だ。このパンケーキは仲間候補のシンボルだそうで、秘密結社の旗みたいなもんだよと店主は言う。さて君は蜂蜜かな? チョコがいいです、いえカカオドリンクがいいです。
三題噺

三題噺

天使/鳥/映画
雨の日曜、納戸で見つけた赤いトイピアノを弾いていると、天使と手を繋いだワンピースの女の子が出た。病気で亡くなったこの屋敷の子といい、天使と二人で合唱していた。人間には聞こえない歌だが、「埴生の宿」だと分かる。庭では鴉が木の枝からじっと動かず、天使の立っていた台座が雨に濡れている。

天使/扇風機/映画
蚤の市で買ったフィルムを回している。部屋は映写機のからから回る音と古ぼけた扇風機の音。どこかのホームビデオの中、ワンピースの女の子が無言で踊る。と、その子に被るように現れた人影。背中に羽を持ち、こちらへ向けて顔をしかめて舌を出した。瞬間、フィルムがあっという間に燃えて無くなった。
菓子三題噺4

菓子三題噺4

炭酸/蝶々/大嫌い
裏カフェが摘発された。常連だったどこかの学生が親にバレたのが原因らしい。店主は逃げ切ったようで空の屋台が転がっている。コンビニのラムネは安い味で、プラ瓶越しに無数の泡が舞うタコ滑り台はやっぱり落書きだらけだ。俺はその上から青スプレーを吹いた。ありったけ吹きつけてもまるで足りない。

炭酸/ピアス/雨垂れ石をも
屋台を引いて行こうとする女子高生を止めると、いや私が貰う約束だからと言う。固そうな外見に合わず自分で開けたらしいピアスが光る。いや祖父さんの残家財で作った屋台だし塗装も俺だしと言うと、いやカラー綿飴売るしと言う。いやそこは琥珀糖ソーダだろと言うと、それ自分考えたんでとドヤられた。
菓子三題噺3

菓子三題噺3

財布/チョコ/夜
カカオを育てる畑が欲しかったが、そもそも日本ではまず育たないらしいうえ、街路樹の根元へ勝手に植物を植えてはいけないそうだ。仕方なく、カカオを鉢に植え替え、夜中に近所のビニールハウスにそっと置いておいた。よく考えたら砂糖も要るので、明日また園芸センターに行ってサトウダイコンを探す。

色白/チョコ/いたちごっこ
サトウダイコンは寒い場所でしか育たないらしいのでサトウキビを買って帰ると、ビニールハウスからカカオが出されていた。仕方なく、カカオとサトウキビの鉢を夜中に近所の植物園の温室にそっと置いておいた。よく考えたらスパイスも要るので、明日また園芸センターに行ってバニラとトウガラシを探す。

制服/チョコ/ブラック
バニラとトウガラシを買って帰ると、植物園の温室は閉め切られ真っ暗だった。経営破綻していて昨日が最終日だったとか。仕方なく、夜中にガラスを割って鍵を開け、カカオとサトウキビを運び出した。他の植物たちの濃い匂い。滅んだ植物園に彼らが残されたのか、彼ら以外滅んだ世界に僕が残されたのか?
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