小噺帖

小噺帖

極小一次創作。よそで作った三題噺や都々逸の一時的集積所。
極小一次創作。よそで作った三題噺や都々逸の一時的集積所。
三題噺

三題噺

かくれんぼ/いじわる/癖
生者の怨念が死者の成仏を妨げたのは史上初ではないか。事故死した僕を引き留めているのは僕が汚部屋にした賃貸の大家で、怒りの圧が人間と思えない。命令通りGの棲家たる食品ゴミの山の処分にかかったが、殺虫剤を食らったGが僕を尻目に次々昇天、羨ましすぎて僕が引き留めたらしく全Gが地縛霊化。

嘘/いじわる/ぽつり
今日中に何とかしないとGと同居で地縛霊化させるとの大家の仰せ。死んでも嫌だが僕が死に切らねばGも居残る。頼むから成仏させてくれと大家に土下座しG共々あの世へ赴いたが、門番は僕を審判の列に並ばせGを易々通す。人間以外は無条件で極楽行きだそうで、羨ましすぎるが流石に引き留めは無効だ。
菓子三題噺7

菓子三題噺7

身長/ピアス穴/甘党
菓子店の新ディスプレイは巨大ステンドグラスクッキーで、文字を型抜きしカラフルな飴を入れた部分は文章だ。と言うか裏カフェ店主に向けた公開挑戦状で、菓子対決らしい。と告げると店主は爆笑し、僕にホットチョコを作らせた。と言うかフォームミルクを乗せ、そこへカカオパウダーで返信を書くとか。
三題噺

三題噺

かくれんぼ/カッター/三秒間
ナイフの柄に彫られた祖先のトーテムは私の代で意味を失うのだろう。どこかから来た人々に追いやられ私たちが移住した先は疫病の巣で、全員を滅ぼすのに時間は要らなかった。ナイフを地に突き立て、私は力尽きるまで祖先の来歴の歌を囁き続ける。ナイフは墓でなく、聴き役でもなく、私たちそのものだ。

メモ/いじわる/三秒間
女王が意に沿わぬ村を罰したのは事実だが、石臼で村人全員を挽いたなど流石に嘘だ。手間が大きすぎるし働き手も減る。その成り行きを記した書は滅ぼされ、そもそも言葉も禁じられた。読む者とて無い石碑のかけらはビル街に埋もれ、また別の戦で焼かれては掘り返され、埋もれを繰り返し幾星霜かになる。

煙草/爪/七転び
莨入れは借金のかたに取られた。本来は身の周りの品を全て自分たちで作り、金銭など必要ない暮らしだったのが、それを野蛮と言われ貨幣経済に巻き込まれた。莨入れは父の父のまた父から受け継いだもので、熊の神の来歴の物語が文様で描かれている。借金取りは何と言ってあれを子に受け継ぐのだろうか。

財布/悪趣味/やきもち
地元に伝わる文様はもはや観光資源であり、主に多数派民族が製造権を握っている。かつて手縫いされたそれらを今は大工場の機械が大量生産し、果てはAIが流行りに合わせた新柄を考えているそうだ。古ぼけた色の巾着は祖母の手縫いだが、図案はどこかの会社に特許を取られ、絵柄の意味を知る者もない。

ベッド/ポケット/七転び
古着屋で買ったバッグはエスニックの布製で、何色もの太い糸がジグザグ模様を織りなしている。古物市で買った品々を入れたところそれらが喋り出し、僕が完全な話を覚えるまで黙らないという。いずれも文字を持たないか文字の現存しない言葉で、僕はそれらを連れて旅の空に欠けた来歴を訪ね歩いている。
国境奉行所

国境奉行所

 盲目の謡唄いの先生は道を間違えたらしく、さっきから周囲の空気やら植物やらの感じがいつもと違うなと思いながら歩を進めると、何やら諍いの場に行き合った。
 が、よくよく耳を傾けると、がらの悪い人々がしきりと誰かを遊びに誘っているようで、酒を呑もうだの女のところへ行こうだの景気がいい。肝心の誘われている人は黙りこくっており、話が進展しないところを見ると(否、聞くと)誘いに乗る気はなさそうだ。あるいは、事情があって行けないのかもしれない。ならせめてこの場で楽しんでもらおうと、先生は得意の琵琶でもって明るいやつを唄い始めた。
 実のところ先生が迷い込んだのは異世界で、悪魔たちが聖人を堕落させようと誘惑している最中だった。が、根が遊び好きの悪魔たちのこと、先生の謠を聴いて即興で歌って踊りだし、たちまち陽気なセッションが始まった。
 ほっぽり出された聖人は目の前の騒ぎに我慢ならず、全員怒鳴って追い出そうとしたが、それも負けた気がして悔しく、ついに自ら踊りの輪に飛び込んだ。
 かくて全員の思惑がずれたものの、聖人は後に風狂と頓知を旨とする新たな宗派の祖として名を残した。
三題噺

三題噺

身長/雨傘/幸せ
日傘はお洒落のひとつなのよと言っていた祖母の死因は記録的酷暑による熱中症だった。研究のすえ特殊な雲を開発した私の研究所は豪雨に苦しむ地域の協力を得てその地域を低い雲で覆った。降りしきる雨を全て受け止めた雲を両地域の人足が私の街へ曳いてゆく。二つの言葉の掛声は不思議にぴたりと合う。

ナイフ/日傘/ペダンチック
雨の降る直前の匂いが好きだと言っていた姉は洪水に流されて行方が知れない。渇水の地域のすごい機械が作った雲は豪雨を受け止め、僕らはそれをあちらへ曳いていって乾いた湖へ放り込んだ。あっという間に湖は満たされ、溢れた水は地を割って田畑へ流れ込む。姉ちゃんもどこかで笑ってればいいけれど。
俳句

俳句

春浅し術後の犬にねんねねんね
北斗七星の持ち手へ沢の音
天に昇る龍もふらふら春一番
三題噺

三題噺

嘘つき/十分間/災い転じて
十分だけ願いを叶えるという悪魔に、彼は三十年前の十分を指定した。家族旅行に出かける時間を十分遅らせたのだ。結果飛行機に乗り遅れた一家は墜落事故を免れ、彼の家族も死なずに済んだ。が、キャンセルした航空券を取って全員亡くなった別の家族の一人はそののち彼の恋人となったはずの少女だった。

制服/金髪/三秒間
笑いの止まらない悪魔は、駄目推しに三秒間だけ願いを叶える約束を彼に持ちかけた。考えに考えた末、彼は十分前の三秒を指定した。悪魔は髪を逆立てて怒ったが約束には従うしかなく、結果この話の作者はこの話を書く途中の三秒間悪魔の設定を忘れ、悪魔は書かれないまま物語は進み、誰も死ななかった。
三題噺

三題噺

蝶/ピアス/駄目なひと
現職は広大なゴミ屋敷の清掃だ。何せ宇宙戦争で住民が全滅した星を丸々片付けるのだ。狭い星じゅう瓦礫だが短期間で壊滅したためさほど汚染はなく、環境汚染で母星を壊した我々地球人が紹介された中で唯一マシな移住先なので是非もない。こんな地にも生態系はあるらしく、蝶一匹がまるで灰燼の宝石だ。

不幸/ピアス穴/バタフライエフェクト
瓦礫撤去が半ば済んだ星を宇宙政府は他に移れという。例の蝶は地球由来の希少種で、地球では汚染で既に絶滅、宇宙でも希少性から奪い合いが戦争になった由。この星は蝶に与えられ、地球人始め全宇宙人立入禁止となる。人類への、これは蝶の復讐か、旧星人の呪いか。何も知らぬ蝶の飛び立つ姿は美しい。
三題噺

三題噺

深海/チェス/ぽつり
銀河の彼方より飛来した宇宙船団が外交相手に選んだのは鯨だった。万物の霊長を自認する人類をハブって協定成立、ゲームや合唱、どうやってか貿易や交換留学などなど交流は盛り上がっている様子だが、やり取りは全て人間の可聴域を超える音波に乗った未知の言語に基づき、人類に介入の余地は未だ無い。

背伸び/爪先/恥ずかしい
銀河の彼方、地球とか言う辺境の星から生物引取依頼が届いた。国交のない星からの話は通常受けないが、見れば地球は星自体随分小さく、件の生物は地球民には巨大怪獣、しかも一匹限りの突然変異だ。引き取った方が幸せだろうということで「怪獣」は宇宙動物園の小動物ふれあいコーナーで愛されている。
三題噺

三題噺

煙草/乾き/シュレディンガーの猫
家の老猫が隣の犬を呪うとか。追いかけ回され車に撥ねられかけたからだそうだ。どこで覚えたのか尾を二股に割りドロドロ言う煙幕付きで突撃していったが、大喜びで尻尾を振るテキに迎えられ、尾の数が自分より圧倒的に多く見えるとの理由であえなく敗走。屈辱で霊力が増しており別の意味でなんか怖い。

嘘/白衣/猫も杓子も
何に倣ったか尾を九本に増やした老猫が隣の犬にリベンジを計る。が、やはり大喜びで出迎えたテキは誰に習ったか頭が三つに増えており、三つの頭に尾を三本ずつ追われて現場は大混乱である。ほうほうの体で逃げ帰ってきた老猫は作戦を変えるとかで僕の部屋にこもり、何やらブツブツ本を読んでいて怖い。

かくれんぼ/煙/猫も杓子も
何で読んだか老猫が隣の犬小屋の鋭角の屋根に狙いを定め、そこから青黒い煙が立ち昇るや犬を置いて脱出。しかしテキは鼻の効く生物のこと、刺激的な悪臭が漂いだすや三つの頭でハクションを連発、風圧と鼻水で煙はあえなく霧散した。物陰から一部始終を目撃した老猫はついに全面対決を決意。もう怖い。

月/マフラー/シュレディンガーの猫
いつの世のつもりか、月夜に老猫は正体不明のヒーローよろしくマフラー姿、隣近所の猫共お誘い合せで出陣。迎える犬が月光に吠え、方々の犬共も呼応し正に一触即発。しかし犬を嫌う猫の気持ちと猫と遊びたい犬の気持ちが重なって両立、めんどくさくなった猫が解散して無効試合。老猫が不貞腐れて怖い。

カーテン/茶髪/猫かぶり
やけになったか老猫が正攻法とて隣家にカラ身で突撃。犬猫交えてギャオンギャオンが始まった。と、出てきたのは隣家の美人お姉さん、「あらあらどうしたのー」の声に犬猫同時にお腹を出して全面降伏。臆面もなく可愛がられる姿を窓から呆然と見る僕に気づいた老猫が睨んできた。次の標的は僕か。怖い。
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