小噺帖

極小一次創作。よそで作った三題噺や都々逸の一時的集積所。
極小一次創作。よそで作った三題噺や都々逸の一時的集積所。
菓子三題噺4

菓子三題噺4

炭酸/蝶々/大嫌い
裏カフェが摘発された。常連だったどこかの学生が親にバレたのが原因らしい。店主は逃げ切ったようで空の屋台が転がっている。コンビニのラムネは安い味で、プラ瓶越しに無数の泡が舞うタコ滑り台はやっぱり落書きだらけだ。俺はその上から青スプレーを吹いた。ありったけ吹きつけてもまるで足りない。

炭酸/ピアス/雨垂れ石をも
屋台を引いて行こうとする女子高生を止めると、いや私が貰う約束だからと言う。固そうな外見に合わず自分で開けたらしいピアスが光る。いや祖父さんの残家財で作った屋台だし塗装も俺だしと言うと、いやカラー綿飴売るしと言う。いやそこは琥珀糖ソーダだろと言うと、それ自分考えたんでとドヤられた。
菓子三題噺3

菓子三題噺3

財布/チョコ/夜
カカオを育てる畑が欲しかったが、そもそも日本ではまず育たないらしいうえ、街路樹の根元へ勝手に植物を植えてはいけないそうだ。仕方なく、カカオを鉢に植え替え、夜中に近所のビニールハウスにそっと置いておいた。よく考えたら砂糖も要るので、明日また園芸センターに行ってサトウダイコンを探す。

色白/チョコ/いたちごっこ
サトウダイコンは寒い場所でしか育たないらしいのでサトウキビを買って帰ると、ビニールハウスからカカオが出されていた。仕方なく、カカオとサトウキビの鉢を夜中に近所の植物園の温室にそっと置いておいた。よく考えたらスパイスも要るので、明日また園芸センターに行ってバニラとトウガラシを探す。

制服/チョコ/ブラック
バニラとトウガラシを買って帰ると、植物園の温室は閉め切られ真っ暗だった。経営破綻していて昨日が最終日だったとか。仕方なく、夜中にガラスを割って鍵を開け、カカオとサトウキビを運び出した。他の植物たちの濃い匂い。滅んだ植物園に彼らが残されたのか、彼ら以外滅んだ世界に僕が残されたのか?
菓子三題噺2

菓子三題噺2

ココア/マシュマロ/満たされる
カップ一杯のココアにマシュマロを浮かべるか、カップ一杯のマシュマロにココアを注ぐかで意見が割れた。僕はマシュマロが綺麗に見えるから前者、友人はマシュマロがちゃんと溶けるから後者。空家の不要な残家財を燃やす火で湯を沸かしながら、ところで牛乳入り前提かと友人が再び不穏な言葉を発する。

嘘/マシュマロ/映画
空家は友人の祖父の家だった古民家だ。二十畳敷ほどの大きな広間を友人はミニシアターにしたがっている。床の間側がスクリーンで席はビーズクッション寝転び自由と夢は尽きない。焚火でマシュマロを焼こうとするから、残家財の薬品が付いたらどうすると止めるが、祖父さんの念が着くぜと口が減らない。

月/マシュマロ/甘党
実のところ古民家は人手に渡ることが決まっており、残家財は今週中に処分せねばならない。夜までかかってあらかたの家具を始末し終え、残りは週末に回した。古着や戸棚を燃やして爆ぜる焚き火をじっと見る友人はさっきからずいぶん無口だ。とりあえずクッキーに挟んだマシュマロは旨いと合意に至った。
菓子三題噺1

菓子三題噺1

制服/砂糖菓子/夜
学校帰り、裏カフェに寄る。自前で直したオンボロ屋台をキッチンカーと言い張るのには閉口だが、これの方が夜に似合う気もする。ワンコインでドリンク(半欠けの湯呑に焙じ茶)をもらい、スイーツ(木枠で仕切られた金平糖やらガムやら煎餅)を選んでよい。もう十円出せばミニ麺にお湯を入れてくれる。

傷跡/砂糖菓子/猫も杓子も
裏カフェはスイーツもリサイクルで、スーパーの期限切れの琥珀糖が今日のメインだ。ドリンクをソーダにしてもらって琥珀糖を入るだけ入れ、カフェの置かれた公園の街灯に透かす。ごみだらけの公園もその時だけは流石に綺麗に思えるが所詮は錯覚で、私がそう言うと店主は違いないねと隠すそぶりもない。

耳/砂糖菓子/トランス
この公園を買い取るのが裏カフェ店主の夢だ。落書きだらけのタコ滑り台もヒョウモンダコ色にして、中でカフェをやるそうだ。ケーキとかも出すよと夢見がちだが、もんじゃか何かだろうと睨んでいる。内緒だがその時は学校をやめて屋台で二号店をやる。学校に店の噂だけ流してそっとカラー綿飴を売る。
買い物/雨/綱渡り

買い物/雨/綱渡り

 海が干上がり千年、強烈な日差しを避け人類が暮らす海跡は地上よりよほど峻険だ。隠れ場所には事欠かぬが足を滑らせれば千粁を真っ逆様、必然、谷と谷を結ぶ綱が道となる。ゴンドラを持たず橋賃も払えぬ者は違法な綱渡りを覚え、今日も身一つで地獄を越える彼らを、谷を満たすには浅すぎる豪雨が叩く。
青/雨傘/映画

青/雨傘/映画

大蛙と茸が雨夜に化けたのは泉鏡花だが、実際に茸の生えた蛙が目撃された。これは蟻の家畜だ。無害な茸を植えた蛙を動く畑として飼う慣いで、蟻たちは苔むす亀の上に住まう螽斯一族からこの遊牧式農耕を教わった。春の宵、亀の鳴き声に応じて茸が光り、かくて両文明の交信は歌う星座のごとく地を彩る。
094:釦(ぼたん)

094:釦(ぼたん)

 三畳紀の地層から発見された宇宙船のような物は、最終的に巨大なアンモナイトと特定された。が、厳重に機密指定されたその殻のスキャン画像には、隔壁一つ一つに膝を抱えて収まるヒト形の姿が写っている。太古から地球にエイリアンが訪れていたのだとはよくあるオカルトだが、実際は現代の異星人が過去の地球へ飛来したのだと、一部の科学者たちだけが知らされている。アンモナイトの現物を没収した情報機関によると、渦巻きをシンボルとする異星のカルト宗教が箔付けのため、違法に四億年の時を遡り、志願した信者の遺体を「渦巻きの黄金比」たる地球のアンモナイトの殻に収めて埋葬し、化石にすることで聖遺物をでっちあげたのだとか。件の異星の捜査機関から極秘で信者の遺体返還の要請を受けたため、地球側は遺体の化石をアンモナイトごと相手方に引き渡した。
 ここまでは地球側のごく一部の人間に共有された話だが、さらに異星側しか知らない続きがある。異星文明に返還された遺体は、カルト宗教への裁判の証人とするため、特別な許可を得た逆行措置を受けて命を取り戻した。同時に元の姿に戻されたのは他でもない、アンモナイトである。そもそも本件が露呈したのは、件の異星カルトが捕獲したアンモナイトの中身の死骸の捨て場所に困って隠していたのをガサ入れで見つかったためであり、殻に戻して再生されたアンモナイトも被害者として認定された。その過程で初めて地球に赴いた異星捜査員は、地球側の現状を目にして二点の衝撃を受けることになる。初めに、アンモナイトがすでに種族ごと絶滅しており、被害者の同胞が現存しないこと。次いで、交渉相手にして現在の地球の支配種たる人類が、地球上の他生物に対して虐殺の範疇を遥かに超える大量絶滅の主要因になっていることである。異星側はこの事態を宇宙警察に通報したが、宇宙警察および宇宙裁判所は事態収拾に頭を抱えている。現在の地球にアンモナイトを返したところで自然界に生存可能な環境は無いし、人類に任せた場合も良くて大混乱、悪ければ金儲けのタネか実験台になるのは目に見えている。それも含めて地球人類の有り様は明確に倫理違反だが、今のところ地球生物はいかなる宇宙法も批准していないため、これ以上の干渉は実質不可能なのだ。と言って三畳紀にタイムスリップして被害者アンモナイト放流だけ行う案も、過去に手を加えた際の現在への影響を予測できないこと、同行する放流作業員が現代へ帰還する際にプラマイ数百年の誤差が出かねないことから却下された。だいいちタイムスリップや逆行措置にしてからが宇宙倫理法的には原則禁止であり、今回の事件が例外中の例外なのだ。
 公的機関が手をこまねいている間に動いたのはカルト宗教側、正確には化石から復元された聖遺物志願者その一だった。アンモナイトの殻とともに地中で四億年を過ごした彼は、実際は死後であったためその期間の記憶はないにも関わらず、その体験を渦巻きの神との合一として「体感」していた。逆行措置と蘇生により殻と引き離された彼は重篤なストレスを抱え、ついには拘留施設の自室を脱走して別棟へ忍び込むに至った。彼が見たのは、三畳紀の海中環境を極力忠実に模した水槽の中、事態を何一つ知らぬまま泳ぐアンモナイト。この頭足類が「渦巻きの神」の唯一にして正統な占有者であることを豁然と悟った彼は、アンモナイトの生体そのものを聖体とする新たな宗教に目覚め、居合わせた職員を人質に水槽付きエアカーを得ると、人質とアンモナイトを積んで施設を脱出した。行き先は時間管理機構。すなわち、地球そのものに逆行措置を施して三畳紀まで戻し、腐った地球人類の代わりに神聖なるアンモナイトの楽園を顕現させるのが使命である。
 エアカー搭載の広域発信機越しに流された彼……今や「新教祖」の目的に捜査機関は青ざめた。地球人類どころか地球の現世生物が残らず巻添えになる。当然激しいエアカーチェイスが始まったが、メンツを潰されたカルト宗教側も黙っていなかった。待ち伏せた信者が新教祖のエアカーを襲撃して乗り込み、同乗者もろとも教会へ連れ去ったが、絶体絶命と思われた新教祖はしかし柔軟に方針を変えた。以前地球への移動に使った無許可宇宙船が教会にあるのを知っていたのだ。信者を車内でしばき倒した新教祖はそのまま教会へ向かい、車庫に入ると見せかけて同じ敷地の宇宙船へトラックごと乗り込んだ。異変を察した他の信者や旧教祖が後を追って船内へ駆け込むのも構わず、新教祖は宇宙船の発進ボタンを押した。が、ここで動いたのが全員に忘れられていた人質で、こっそりエアカーの水槽部分を切り離し、発射間際に自分もろとも宇宙船から滑り出た。他の者が気付いた瞬間宇宙船の扉が閉まり、船は空の彼方へ進路を向けて飛び出した。教団全員巻添えで新教祖が定めた自動運転の行き先は巨大ブラックホールである。
 その後、当局は一度限りの特例措置としてアンモナイトをタイムスリップで三畳紀の地球へ返し、放流作業員も無事に現代へ帰還した。それ以降、時間管理は一層厳格化され、また地球への干渉は一切行われていない。例のカルト教団も、宇宙船が巨大ブラックホールの事象の地平面を超えた時点で危険無しと判断され、追跡対象から消えた。
 数百億年を経て、そのブラックホールは銀河を形成するに至った。別の星からの観測では、美しい渦巻き銀河であるという。
039:オムライス

039:オムライス

 どうということのない、白いマグカップが一人に一個。西暦21XX年、全世界で食器はそれに限られていた。
 食糧危機ではない。むしろ食べるものは質・量・種類ともに史上空前の規模を誇り、全人類は健康に、幸福に食文化を謳歌していた。全てマグカップのおかげである。
 もちろん前世紀までのアナログマグカップとはわけが違う。
 本体の側面がタッチパネルになっており、飲みたい/食べたいものを自由に検索できる。コーヒーひとつとってさえ、産地も濃さもブレンド具合もお好み次第。食べ物も白米、ラーメン、シリアル、オムライス、カオマンガイなどなど古今東西何でもござれで、刺身やフルーツなどという生ものも可能。メニューを決められない時も、持ち手のセンサーで持ち主の体調や感情が読み取られ、最適なおすすめメニューがタッチパネルに表示される。欲しいものを決定したら、側面を底から指でスワイプし、好きな高さまでマークして、量を決める。ここまで確定すると、オンライン上から食品データがダウンロードされるので、あとは至る所にあるフードスポットに行き、食品生成マシンにマグカップを置けば、目当てのご馳走がカップの中に満たされるという寸法。
 つまり合成食品だが、見た目や味、食感は完璧に再現され、ついでに持ち手のセンサーで読まれた情報にそって、味や栄養が持ち主に最適化されている。まずいわけがないし、体にも申し分ない。ちなみに、食品生成のための原材料は海水、土、石、空気など。その辺にあるものを食品生成マシンに入れれば、分子レベルで分解して好きに再合成してくれる手軽さである。
 ということで、このマグカップシステムは、発表直後から基礎インフラとみなされた。国連の強力な後押しもあってわずか数年で全世界に行き渡り、従来の食糧事情をがらりと変えてしまった。もちろん一次産業はほぼ駆逐され、当初はこれまでの「自然食」消滅を嘆く声もあったが、結局は「誰もが食べていける」とあって、反対派もそのうち矛を収め、マグカップで和解の盃となった。かくて人類の辞書から飢餓の文字がなくなり、ダウンロード可能な食品データは日々増え続け、世界はいにしえの人々が夢見た黄金時代のただ中にある。

 かく言う僕は、そのマグカップシステムの会社に勤めている。
 今は、夜の食品データセンターの作業室だ。同僚は少し前に帰り、周囲ではサーバーが低くうなるばかり。
 マグカップの中身をスプーンで口に運んだ。ねっちょりした魚団子の食感。僕の舌にはなじんだ味だが、正解かどうかは分からない。父方のおじいちゃんの故郷の魚料理だという。
 おじいちゃんは南太平洋の出身だけれど、温暖化で島が沈み始め、僕が生まれるずっと前に全ての島民が退去させられた。僕は物心ついてからずっと、帰りたい帰りたいというおじいちゃんを見てきたから、島が小さな岩になって、それでもまだ海面に出ていた数年前、旧住民向けの現地ツアーにおじいちゃんを連れていこうとした。けれど出発直前の巨大台風で、その小さな岩は跡形もなく沈んだ。おじいちゃんはすっかり気落ちして、その年のうちに亡くなった。
 僕がこの魚団子の食品データを完成させたのはついさっきだ。というより、もともと作ったまま放置していたデータを、ようやくアップロード用に微調整した。
 おじいちゃんはこの食品データの味を認めようとしなかった。何回作り直しても、悲しそうに首を横に振った。
 ――あの島では魚はもっと美味しい。潮風や波の光、足の裏の砂のざらざら、そんなものがみんな味になる。材料がそっくり同じでも、これを再現はできないだろう? 何より、食器だよ。このお団子は、いい香りの葉っぱで包んで蒸さなくては……。
 その葉っぱのとれる木は、一本残らず沈んでしまった。他の土地に移しても育たなかったのだ。つるつるのマグカップの中の魚団子のデータは、葉っぱの香りなど一すじも知らない。
 僕は魚団子を平らげ、マグカップをひっくり返した。
 この時代のスマホといえば、実はこのマグカップだ。底面がディスプレイになっていて、中身が入ったままでは見られない仕掛けなのだ。食事中は食べ物や会話を楽しみましょう、というわけだ。
 ディスプレイには生中継が表示されている。主要国の偉い人々の会合だ。
『希少な料理のデータ化をさらに推し進めるのです……少数民族の料理を採集し、古代のレシピを再現し……』
 さらに、それらを有料配信すれば、巨大産業となる。偉い人々と一緒に映っているのは、うちの社長だ。当然だ、晩餐に使うのはうちのマグカップなのだから。
『この食の黄金時代はさらに発展します……古今東西、あらゆる料理を皆様の口にお届けできるでしょう……』
 でも、その中におじいちゃんの魚団子は永遠にない。
 僕は深呼吸し、会合出席者全員のマグカップに社員IDで違法アクセスした。それらに入っていたご馳走のデータの数々を、みんな魚団子のデータで上書きしてやる。
 そして、全員のマグカップの底のディスプレイに宛てて、ひとつメッセージを送った。
 〈この料理の本当の味を教えてくれるまで、皆さんの大好物のレシピデータを消し続けます〉

(了)
三題噺

三題噺

カーテン/餌付け/迷宮

巨大なシャチが夜のビル街を回遊する。ひとけのない都市は石の灰色で、シャチが時折覗く窓はみな暗い。ビルの谷底にぽつんと点るのは旧い家の灯で、暮らすのはおばあちゃん一人だ。おばあちゃんが猫三匹を寝かしつける布団の横の柱には越冬中のテントウムシたちが固まり、猫と同じ枯葉の夢を見ている。

深海/窓際/災い転じて

シャチを知っているのは猫とテントウムシの他はおばあちゃんだけで、おばあちゃんはシャチを人間の次の世のさきぶれと考えている。ほどなく、おばあちゃんが電気を消した屋根の上をシャチが泰然と行き過ぎる。じき暖かくなればおばあちゃんはテントウムシたちを窓から日なたの側に出してやるつもりだ。
お題【クリぼっち】からの【新年】 ※蔵出し加筆

お題【クリぼっち】からの【新年】 ※蔵出し加筆

 気分だけでもと、ドアに安物のクリスマスオーナメントを飾った数日後、木馬の模型が取れていた。捨てるのも気の毒で拾うとソレがしゃべり出し、自分を正月飾りに使えと言う。ちょうど注連飾りもないし、好都合とばかりにドアに吊るしてやると、左向きにしろと注文がついた。縁起物だと言うので調べたら本当らしく、左馬という記述があった。
 大晦日の夜、あの馬を先頭に世界中の馬という馬が左へ左へ地球を駆ける夢を見た。この国を筆頭に世界へ新しい年を告げに行ったのだろう、目覚めるとドアの馬は影も形もなかった。が、耳の奥で微かに轟く馬蹄の音にその一年じゅう駆り立てられ、今こうして世界を経巡りながら馬の写真を撮り続けている。
NEW ENTRIES
俳句(04.07)
三題噺(04.02)
三題噺(03.31)
三題噺(03.28)
三題噺(03.24)
三題噺(完結)(03.23)
菓子三題噺 幕間(03.18)
菓子三題噺6(03.18)
菓子三題噺5(03.18)
三題噺(03.17)
TAGS
お題 もらったお題 三題噺 掌編 短歌 短編 都々逸 俳句 琉歌
ARCHIVES
LINKS
RSS
RSS