御神木は高さ数十メートルの檜で、八方に広がる巨大な枝は生き物たちに丁度良かった。
忍者専用の樹上喫茶にも同様で、木の高さから忍者しか入れず、また人間扱いされていないため御神木に上がって差支えないという理屈だ。
店主の意向により喫茶ではあらゆる情報交換や諜報が禁じられ、店は静かに繁盛している。奥の席の壮年は抹茶碗を前に禅の境地を探り、二人席の少年少女はケーキ盛合せと各種シロップで枯山水作りに余念がない。ようよう敵陣を逃げ延びた足でシャケ粥を貪る下忍と相席で同じシャケ粥を静かに喫する上忍はその敵側だ。ウッドデッキに寛ぐのは大きさも色形も様々な忍犬で、好みに応じた肉をもらえる。
店を守る店主がどんな諜報禁止ルール違反も決して見逃さないのは客なら誰もが知っているが、それを心得ない外部の者……例えばいま樹下にいる侍たちも運命は同じである。裏切った忍びを渡せと喧しい彼らを無言の唐辛子弾で追い払った店主が元は凄腕の戦忍びだというのはもっぱらの噂だが、それを確かめるのも無論ルール違反だ。顔色ひとつ変えないまま店主はカウンターに座る三つ子のばあさんに特製ナポリタンを炒めている。