仕事の葬式
仕事の葬式の依頼があったので、昼休みに職場近くの河川敷へ行った。
依頼主は隣の部署の同期だ。コンペで最後まで競った案件だったらしい。今回は自信あったんだけどね、笑い混じりの口調から逆に無念が知れた。
河川敷はちょうど菜の花が盛りで、その間にしゃがんだ同期は販促用のボールペンを地面に置いた。売り込み先でもらったらしく、有名家電会社のロゴが入っている。同期は手を合わせ、何ごとか祈っている。葬式に作法はない。祈り方も、場所もどこでも構わない。自分で納得が行けばいいのだ。
やがて顔を上げた同期が差し出すポールペンを、私は御供選承りますと一礼して受け取り、持ってきた箱に入れた。
箱は手土産のお菓子の空き箱だ。花柄が可愛いのでふさわしい気がして貰い、以来使っている。
会社への道すがら、同期がキャラメルを噛み噛み次の営業先の話をするのを、私もキャラメルの包装をむきながら聞いていた。葬式の料金はお菓子一個。チョコ一粒でもクッキー一枚でも構わない。
私たちが歩くたび、手の中で箱の中のものたちがかちゃ、かちゃ、小さく鳴った。
この葬式を始めたのは新人時代、何度目かのへまをした時だ。切り替えのために葬式のまねごとをしたのを何の気なしに同僚に話したら、彼女から自分の案件の供養を頼まれた。
それが社内に伝わったらしく、月に数度ほど依頼が来る。今回の同期はもう何度目かだが、後輩だったり、まったく知らない人だったり、まれに偉い人だったりする。供養する案件を明かす人もいれば、何も言わずに手だけ合わせる人もおり、私はそのすべてを忘れることにしている。
デスクに戻り、箱を開ける。中にはさっきのペンやら、クリップやら、消しゴムやら、使いさしの付箋やら。中からダブルクリップを選び、箱は本立てに戻した。ちょうどA4サイズの箱はファイルの横にしっくり並んでいて、ぱっと見で目を留める人はいないだろう。
印刷した書類をダブルクリップで挟み、回覧印を捺して隣の席に回す。
ダブルクリップは後輩の供養品だ。手に負えなくなって先輩に引き継いでもらった案件の葬式の時のもので、その書類を挟んでいたと言っていた。
仕事の葬式の時には、供養品をひとつ納めてもらうことになっている。その案件に関わるものなら何でも構わないが、その後の行き先上、なんでもない小さな事務用品が多い。
葬式を終えた供養品たちを、私がこの箱に一週間納めておいたあと、こうやって別の仕事へと放流してやるのだ。
こうして旅立った供養品たちが何の案件に使われるのか、その案件は実るのか、確かめた人はいないし、私も確かめない。
チョコの袋を破って口に放り込み、私は仕事に戻った。このチョコも何かの葬式の代金――いや、単にもらっただけだったかもしれない。それも忘れることにしている。
依頼主は隣の部署の同期だ。コンペで最後まで競った案件だったらしい。今回は自信あったんだけどね、笑い混じりの口調から逆に無念が知れた。
河川敷はちょうど菜の花が盛りで、その間にしゃがんだ同期は販促用のボールペンを地面に置いた。売り込み先でもらったらしく、有名家電会社のロゴが入っている。同期は手を合わせ、何ごとか祈っている。葬式に作法はない。祈り方も、場所もどこでも構わない。自分で納得が行けばいいのだ。
やがて顔を上げた同期が差し出すポールペンを、私は御供選承りますと一礼して受け取り、持ってきた箱に入れた。
箱は手土産のお菓子の空き箱だ。花柄が可愛いのでふさわしい気がして貰い、以来使っている。
会社への道すがら、同期がキャラメルを噛み噛み次の営業先の話をするのを、私もキャラメルの包装をむきながら聞いていた。葬式の料金はお菓子一個。チョコ一粒でもクッキー一枚でも構わない。
私たちが歩くたび、手の中で箱の中のものたちがかちゃ、かちゃ、小さく鳴った。
この葬式を始めたのは新人時代、何度目かのへまをした時だ。切り替えのために葬式のまねごとをしたのを何の気なしに同僚に話したら、彼女から自分の案件の供養を頼まれた。
それが社内に伝わったらしく、月に数度ほど依頼が来る。今回の同期はもう何度目かだが、後輩だったり、まったく知らない人だったり、まれに偉い人だったりする。供養する案件を明かす人もいれば、何も言わずに手だけ合わせる人もおり、私はそのすべてを忘れることにしている。
デスクに戻り、箱を開ける。中にはさっきのペンやら、クリップやら、消しゴムやら、使いさしの付箋やら。中からダブルクリップを選び、箱は本立てに戻した。ちょうどA4サイズの箱はファイルの横にしっくり並んでいて、ぱっと見で目を留める人はいないだろう。
印刷した書類をダブルクリップで挟み、回覧印を捺して隣の席に回す。
ダブルクリップは後輩の供養品だ。手に負えなくなって先輩に引き継いでもらった案件の葬式の時のもので、その書類を挟んでいたと言っていた。
仕事の葬式の時には、供養品をひとつ納めてもらうことになっている。その案件に関わるものなら何でも構わないが、その後の行き先上、なんでもない小さな事務用品が多い。
葬式を終えた供養品たちを、私がこの箱に一週間納めておいたあと、こうやって別の仕事へと放流してやるのだ。
こうして旅立った供養品たちが何の案件に使われるのか、その案件は実るのか、確かめた人はいないし、私も確かめない。
チョコの袋を破って口に放り込み、私は仕事に戻った。このチョコも何かの葬式の代金――いや、単にもらっただけだったかもしれない。それも忘れることにしている。