小噺帖

極小一次創作。よそで作った三題噺や都々逸の一時的集積所。
極小一次創作。よそで作った三題噺や都々逸の一時的集積所。
#秘密基地への旅

#秘密基地への旅

 隙間が好きだ。
 ガラス戸と大きなカーテンの間に身をすべり込ませ、薄皮一枚の向こうで笑いさざめく家族の声を聞くのが好きだ。時折カーテンを細く開け、人々を覗くのが好きだ。
 プレゼントや手紙が大きく開かれる寸前が好きだ。その暗がりの中に、入っているはずのものが形も知れず、それでもじっと在るのが好きだ。
 ランチタイムの教室で、かしましい食器の音や喋り声が偶然ぱたりと途絶えるのが好きだ。誰もが事態を感知してどっと笑い出す直前の、何秒とも数えらえぬ間に満ち満ちる静寂が好きだ。
 路地裏。細く開いた扉。一冊だけが抜き取られた本棚。人の途切れる時間帯の公園。ノートの文字の行間。
 そこを通ってゆくのが好きだ。
 そこに身を収めるのが好きだ。
 そういう存在として生まれた。
 気づいたらそういう存在だった。人間や他の生き物が私を何と呼んでいるのか、私のような者が他にいるのかは分からない。
 それでも、この私が収まれる隙間はこの世に無数に発生し、私はそこに心地よく在る。そのさまは私以外の何者にも感知されないが、私がみんなの意識の隙間にいる存在だというなら、それは何より快いものだ。