家出した夫が帰ってきた。
物も言わずにこにこしているところを見ると、本物でなく狢のたぐいなのはすぐ知れたが、山が荒れて棲家に困ったのだろうと思うと何やら申し訳なくもあり、置くことにした。
昼はしおらしく夫の姿で過ごしており、飯時に食い物を散らかすのは閉口だが、畑の横をほじくり返して虫を捕る姿は愛嬌がある。だがそれも布団に潜り込むまでで、そっと夜具をはがすと狢に戻って寝こけている。それでも毎朝毎朝こちらが目を覚ます頃には夫の姿に化け直しているのは律儀なものだ。
近所の人らも事情は察したようで、人と同じように挨拶をよこしてくれる。夫はにこにこするばかりだが、それが相手の気にいるらしい。だいいち呑んで暴れないし、金も持ち出さない。
ある日、どこかで見たような男が家へ入ってきた。男は夫を見、私を見て、この浮気者がとなじったので、それでようやく元々の夫なのだと思い出した。
だが、つらつら見比べるに、夫と元夫はこちらが首をかしげるほど似ていない。きっと毎日化けなおすうちに、少しずつずれてきてしまったのだろう。
私の前にはにこにこする夫と、いらだたしげな知らない男がいるばかりだ。騒ぎに駆けつけた近所の人らも、にこにこする夫を指さして、この人が旦那さんだよずっとそうだったよと頷きあっている。