たまたま入った雑貨屋の棚のスノードームの中では、赤い毛糸帽に青いジャンパーの小さな男の子が無邪気に両手を差し上げ、その上へ音もなく雪が落ち続けている。
ドームに触れてもいないのに、雪は後から後から降り、止む気配もない。そういうものなのだ。
背後のカウンターの店主は物音ひとつ立てない。私は棚の前に棒立ちで、目の前の小さな世界をただ眺めている。
ガラスの中の男の子は、豆粒ほどの顔いっぱいに笑っている。雪が大好きなのだ。雪粒を捕まえようと上へ伸ばす両手には、帽子とお揃いの赤いミトン。青いジャンパーとズボンには自動車のアップリケが入っている。
そして、中に着ているセーターはベージュ色で、馬の模様が入っているはずだ。見えないが、間違いない。
私が編んだからだ。
この世のどこかの店に、死者たちの生前の姿をうつした物が並ぶと聞いたことがある。
スノードームの男の子は私の息子だ。
見間違いようがない。
ただし、昨年私が家を出てして以来、一度も会っていないのだ。
この子の姿が、こうしてここにあるということは……
はっとした。
スノードームの中、男の子の後ろ。
同じくミニチュアの標識に書かれた、歩道の名前。
私は店を飛び出した。
* * *
翌日のラジオニュース。雪でスリップして歩道に突っ込んだ車に撥ねられかけた幼児を間一髪で救ったのは、奇跡的に通りかかった別居中の母だったという。
それを聞き流し、雑貨屋の店主はスノードームを棚から下ろした。
丁寧に磨かれるスノードームは空っぽ――否、台座の裏には「水晶玉」とある。