小噺帖

極小一次創作。よそで作った三題噺や都々逸の一時的集積所。
極小一次創作。よそで作った三題噺や都々逸の一時的集積所。
090:イトーヨーカドー

090:イトーヨーカドー

 人類はロボットに追い詰められ、滅亡の危機に瀕していた。とはいえ反乱ではなく、広い意味で人類が望んだ結果ではあった。
 当初は戦争用の自律式兵器だ。敵方での使用が確認されるやもう一方も自陣にそれを導入し、とめどない殺し合いになる。戦況が長引くにつれ、致命傷を負った兵士や民間人に対して安楽死ロボットが使われるようになった。情勢は混沌の一途を辿る。鹵獲された自律式兵器がかつての味方側に照準を合わせ、ハッキングを受けた安楽死ロボットが周囲の人間を無作為に狙う。
 かくて、程なくどの陣営においてもロボットは「敵意ある敵」「敵意ある味方」「慈悲ある味方」「慈悲ある敵」の四通り以外の意味を失い、そのいずれもが人間狩りにおいて等しく勤勉だった。
 さして長くもない成り行きのその果て、人類史最後の一人の傍らに控えるのが正常な安楽死ロボットだったのはさすがに神の慈悲かもしれなかった。もはや生きる意欲とて無く執行を待つ彼/彼女の目に映るのは、荒れ果てた市街を割ってしたたるばかりに伸びゆく植物、そして「万物の霊長」に目もくれずに傾いた廃デパートを闊歩する動物たち。終わったのではない。始まったのだ。単に人類抜きで。
 最後の一人がいなくなり、標的を失ったロボットたちも同時に終わりを迎えた。
044:バレンタイン

044:バレンタイン

 ある村に、みんなから馬鹿にされる男がいた。動きや言葉がすこしゆっくりしていて、みんなは寄るとさわると彼の陰口をささやいた。
 だが優しい人もいて、隣のおかみさんはこっそり飴をくれたし、向こうの若者は人目のない時に刈り入れを手伝った。村外れのじいさんはもう亡くなった彼の両親の話をいつもしてくれた。庄屋の家の娘は馬小屋を掃除させては駄賃を多めに握らせた。
 ある時、彼はその人たちに藁と花を編んで手製の胸飾りを作った。ゆっくり作ったので、きれいな飾りがいくつもできた。それを彼は一日かけてゆっくり配った。
 次の日から、彼への陰口はぴたりと止んだ。村人は一人残らず、その飾りを胸に付けていたのだった。
095:ビートルズ

095:ビートルズ

 どうしようもなく参った時に楽器を作っては鳴らしているので、彼の家は楽器だらけだ。仕事が終わらない時。人ともめた時。三日連続で終電を逃した時。呻きは笛となりすすり泣きは弦となり歯軋りは打楽器となり、声色でなく音色でもって空気を震わせた。
 住んでいるアパートが区画整理で壊されると決まった夜、彼が紙箱で作った輪ゴムギターの音に、アパートじゅうから楽器たちの音が和する。トランペットは隣人だし、鳩笛は下の階の老人だし、手拍子は若夫婦だし、瓶を叩くのはたぶん大家だ。
080:ベルリンの壁

080:ベルリンの壁

 牢があった。
 夜の長い国で、冬は人を押し固めるような寒さだったが、牢はあたたかだった。羊毛を分厚く貼った石壁の内に、囚人たちは日々を過ごした。
 国の王が無慈悲だったので、牢は逆らって捕らえられた者たちでいっぱいだった。看守たちは囚人のために日々ジャガイモと肉と野菜を茹で、晴れた日は外でボール遊びをさせ、夜は襲撃者の無いようがっちりと鍵をかけた。そして王の役人たちに、囚人はひとりも逃げていないと告げ続けた。囚人たちもそれをよく知り、看守の前では決して外とやり取りしなかった。
 夜も昼もなく真っ暗な季節も深まったある日から、囚人たちの夕食の皿に赤い実が乗る。看守たちが牢の庭から摘んだナナカマドの実で、囚人たちは十二月に入ったことを知る。
 クリスマスの夜、皿にはヒイラギの葉と実が乗り、クリームの塊がつく。看守たちは、囚人に雪で冷やした飯を食わせているのだと報告する。
 晩餐のあと、石の廊下には看守たちの静かな合唱がこだまする。Adeste Fideles。囚人たちは物音も立てないので、今年入った看守のテノールは独り言のようだ。
#秘密基地への旅

#秘密基地への旅

 俳句アプリに写真が投稿された。
 どこかの寂れた港で、傾いた漁船の上をカモメが数羽舞っている。それもまた俳句で、TLは大盛り上がりだ。
 僕の開発した俳句アプリ「ホソミチ」は当初、過疎っていた。もともと練習用に作っただけで、題材を俳句にしたのも流行っていたからにすぎない。
 そんなわけでローンチ後は存在すら忘れていたのだが、どこかでバズりでもしたか、ある時期から海外の投句が急増した。大半はローマンアルファベットだが、ヒンディーやキリル、アラビア、タイ、その他分からない文字も。翻訳にかけてみると意外にも荒らしはほとんどなく、みな風景だとか日常を綴った短詩のていを成していた。むろん季語が無いものも多く、五七五が守られているかなど僕には検証しようもないのだが、それでも僕のアプリに投稿される無数の誰かの日々はどこか慕わしいものだった。
 こうして僕からは特段手を入れるでもなく、しばらくは思い出した時にTLを確かめるに留めていた。
 が、その間に何らかの乗っ取りがあったらしく、ある日Ver.2.0が配信されていた。見ると文字の他に写真や音声の投稿機能が新設されている。ただのSNSじゃないかと一瞬思ったが、文字・写真・音声はおのおの単独でしか投稿できない仕様で、TLを見ると写真や音声も俳句として扱われていた。
 写真は道端の景色、誰かのスナップ、身近な静物。音声は短詩の朗読、あるいは手近な楽器で弾いたワンストローク、鼻歌や口笛なんかも。もはや俳句の定義すら怪しいが、詩情を感じさせるものが詩であるならば、こここそが詩の最前線ではないか。
 が、新たに出現したVer.3.0は気配がおかしかった。匂いや味、触覚が投稿可能となったのだ。
 さっそく誰かが投稿したらしい匂いをひとまずタップすると、どういう理屈か最初はインド料理屋のレジ横のスパイスに似た香りから、最後は森の中のような匂いが鼻を抜けた。寡聞にしてそんな感想しか出ないが、確かに何かの景色が浮かぶ感じで、ユーザーにも好評だ。かくて匂い・味・感覚も、従来の文章・画像・音声と共に俳句として市民権を得た。
 この頃からだ。投稿の一部に、翻訳不能な文字や地球上と思えない風景写真、奇怪な鳴き声(?)が現れ始めたのは。匂いや触覚は試す勇気がない。直近のVer.4.0は第六感が投稿可能だ。
#秘密基地への旅

#秘密基地への旅

 遊園地の一番人気は街並再現エリアだ。昭和やら江戸でもなく、外国でもない、ただの住宅街が1ブロック再現され、人々はどの家にも自由に入っていける。家の中には家財道具がひと揃い、それも食器はシンクの食器かごに立てられ、学校のお知らせが壁に貼られ、まるで今まさに誰かが住んでいて留守にしているありさまだ。人々はそんな「誰かの家」をそぞろ歩き、「誰かの暮らし」を垣間見、「誰かの気配」をなでさする。僕の気に入りは奥から二番目の家の押入れだ。上の段の布団に寝転ぶとサッシ戸を通して六畳間に日光が落ちる。実家は完全にフローリングだったから、そのむかし行儀が悪いと眉をひそめる母の目を盗んではベッドの中で駄菓子を食ったその匂いが蘇るのは不思議だ。
 とは言え今は勤務中なのだ。僕の仕事こそは、この家々に住み込んで、人々がいじった家財道具をそれとなく「自然な」「誰かの家」の状態に戻すこと。ただの住宅街と言ったが、この街並をそう思うのは僕の世代までだろう。少子化と独居が進んだ現代、家族の暮らしなどもはやレアケースだ。僕が今そっと戻した座卓の上の湯呑みの柄は、実家のマグカップよりも鮮明で近しい。
#54字の物語

#54字の物語

「一か月後に巨大隕石で地球滅亡」の予測に、ひと握りの有力者と富豪は地球を脱出。翌年の平和賞は天文学者だった。
072:喫水線

072:喫水線

 卓上の古い天気管にひどい結晶ができている。夕方、雲が怖いような勢いで流れていたので、やはり嵐が近いらしい。
 山の上の砦は砦というより小屋で、屋根が鳴りっぱなしのぎしぎしの奥から風音がうねり寄せてくる。もう慣れたことではあるが、時折それがひときわ強くなるのはまだ恐ろしい。そんな中で天気管の結晶の葉脈は信じられないほど精密だ。あまり覗き込むなよと先輩が言うが、見ていれば気が紛れるので、僕は細い一筋一筋を目がつりそうになるまで覗き込んでみる。
 と、葉脈がざわりとそよいだ。いや、それはそもそも結晶なのだが、しかし葉というよりは羽毛に似たそよぎで、いや羽毛というよりむしろ翼で、その翼がほどけて顔が現れた。
 巻毛のうつくしい子供の顔だ。
 それがにっと笑い、翼が再びそれを覆い隠し――ひときわ大きな風が砦を揺らしたはずみにランプが消えた。
 恐慌をきたした僕に構わず先輩が点け直したランプの灯の中、天気管の結晶はほとんど消え去り、台風一過を示していた。
 だから覗き込むなと言ったろう。ランプを机に置き、先輩が冷めた目で言う。あの、あの、天気管を指さして言葉の出ない僕に、そりゃ空模様を見る道具だから空の中の連中も見えるさと先輩は事も無げだ。
033:白鷺

033:白鷺

駅前再開発に対抗して商店街に鳥が放たれた。さまざまなニワシドリが並べる巣を商店街は店舗とし、サギの巣のコロニーは近隣住民のアパートとなった。こうして野生動物保護の観点から再開発が一時見送られたと思いきや、そこに飛来した大量の野生化インコ駆除の名目で保健所に率いられた行政が乗り込み人間は大乱闘に。事態を打開したのは迷い込んだサルで、一匹がニワシドリの店舗から何かを買うしぐさを見せると同時に他のサルも山から下りて商店街で爆買いを始め、それに伴って降りてきた動物が商店街を大量利用。ムクドリの群れが大量に落とした糞は地を活性化させ、めきめき繁る草木は駅前を再野生化した。
制服/血清/数式

制服/血清/数式

破産した私に借金取りが勧めた高額バイトはバールのような物を使うらしい。強盗ではないから大丈夫大丈夫と何の慰めにもならない慰め方で連れられた先は廃倉庫で、巨大な魔神像の前で儀式が行われており「生命保険の1%は実家に払っとくから」と言われながらそのバアルのような者に魂を喰われている。

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