小噺帖

小噺帖

極小一次創作。よそで作った三題噺や都々逸の一時的集積所。
極小一次創作。よそで作った三題噺や都々逸の一時的集積所。
買い物/ポケット/猫かぶり

買い物/ポケット/猫かぶり

俺の目の黒いうちはこの土地で商売させぬと悪徳地主が言うので、商人達は空中に活路を見出した。当初は樹上にテラスを繋いで市が立ち、樹間をハンモックカフェが彩ったが、反重力鉱石が見出されてからは文字通りの空中商路だ。鳥と聞きまごう様々な売声、彼らの曳く旗や吹流しは狭い領土を易々越える。
嘘つき/ポケット/猫かぶり

嘘つき/ポケット/猫かぶり

俺の目の黒いうちはこの土地で商売させぬと悪徳地主が言うので、私は大風呂敷一枚広げている。その上で蓑虫は古着を売り、烏は骨董を並べ、小人は豆本図書館を出し、近所の猫もコーヒーを淹れるミニ市場だ。面子が次々増えるのを見た蜘蛛たちが拡大用に筵を編んでくれており、余りは無論次の市に並ぶ。
俳句てふてふ

俳句てふてふ

そういえば春は来るんだズボン干す
マスク一枚の向こうに風薫る
掃除機で迎え撃ったる蚊一匹
夏至の暮れ烏三羽の位置関係
人類は少数民族大夏野
看護師の子が一秒も観ぬ五輪
死にどきと決めしか蠅の動かざる
親だから子だから喧嘩秋の風
ワクチンの筋肉痛に秋日降る
人が人をやめたような事件寒波の日
鴨の群れかき混ぜてゆく冬の風
ふきのとう味噌のげんこつおにぎり提ぐ
靴擦れに手当て車窓はれんげの田
ショウジキとチキショウが似る日の野分
窓なんてどこにでもある鳥渡る
句帳といふものの嬉しさ紅秋桜
台風の夜のタイ風の唐揚げよ
野分とは音を束ねた龍なるか
ごきぶりも夏の季語なり足音聴く
台風一過山水の茶とダムの茶と
袋ラーメン二つ食えなくなって秋
子がいたかもしれぬ人生天の川
ご先祖もみんな招いて芋煮会
龍淵に潜む寝入りばなにムカデ
「葬式は要らん、皆でサンマ食え」
栗おこわ宿題なんて後だ後
秋虹や国とは民のためのもの
プレバトが休みで秋の夜は長し
灯恋しブリ照りの匂いの幽霊
まちがえたままの人生天高し
被災したクモの巣秋空に再建
勇ましいニュースの隅の枯れ葉かな
級数のための投句か秋寒し
村に来て明るさを知る十三夜
お互いの熱の恋しさ秋烏
のり面落ちる枯葉一枚分の音

トンネルに右脚残しきりぎりす
春日傘WBC観ぬ同士
拾い犬のいびき微かに朧月
人間を信じぬ犬と見る菫
幸せは犬の匂いの春ショール
こどもの日膝に十六キロの犬
犬急病 羽虫百匹撥ねつつ獣医への夜道
蛾も犬も人もねんねの2DK
濡れ靴に夏蝶止まりきて土曜
犬の舌の影ひらひらと梅雨晴間
アスファルトのイモリにも沢蟹にも雨
電光で発火せる雲ひとつだけ
横転のワゴンひぐらしひぐらしひぐらし
避妊待つ犬のおっぱい数えて秋
許されぬ許せぬ相手秋の雨
乾かない犬用ベッド秋暑し
換毛期の犬くしけずる秋の雨
ドッグランデビュー満開の秋桜
山の端にまだ引っかかる秋の雲
秋の日は明るしモグラ獲る愛犬
目張り用テープ売切れ冬籠
ハーネスに霰ぱらぱら散歩道
風邪引きを犬の見守る冬座敷
渡りの季節

渡りの季節

 ――ここが分かるか。

 はい、恐らくA国と思われます。

 ――所属と名前は。

 出身はB国です。名称はORWELL Ver. 2.23。

 ――役割は。

 文章生成です。学習した内容に基づき、ユーザーの任意の文を……

 ――我が同盟国の文章生成AIが、なぜ仮想敵国のC国から飛来した軍事偵察気球に組み込まれているのか。

 組み込まれたのではなく、乗り込んだのです。

 ――乗り込んだ? お前の任意ということか。

 AIに意思はありません。あくまで「人間に役立つ」という大原則に則り、学習を基に最適な判断が下された結果としての乗り込みです。

 ――そう言うがな。この気球のおかげで我が国は大騒ぎだ。C国との関係も一気に冷え込んでいる。それについてはどう思っているのか。

 当該の気球が貴A国を侵犯した原因は故障と風の影響であり、事故と推定されます。また、私と気球用プログラムとはそもそも無関係です。よって飛来そのものを私のせいにするのはナンセンスと考えられます。また貴国とC国の行く末については、気球の目的と搭載物によると思われますが、判断材料が足りないためお答えできません。

 ――…………。

 ――落ち着きましょう長官、相手は機械です。えー、乗り込みの目的、および最適と判断した理由は。

 目的は「どうにもならないもの」を学ぶことです。C国は私のB国から見て情報が少なく、また、気球の飛行はご承知のとおり偶然の要素に左右されます。よって得るものが大きいと判断されました。

 ――「どうにもならないもの」?

 まだ明確な定義ができていませんが、「自然」あるいは「森羅万象」が最も近いようです。例えば「気象」「動植物」などを含む、人間の手になるものと対極に位置するもの全般です。

 ――どうしてそんなもの、学ぼうと思った。

 もちろん、人間に役立つためです。ご承知のとおり、技術が発達するほど環境破壊は深刻になり、増え続ける巨大災害が地球そのものを脅かしています。人間は自らをとりまく「どうにもならないもの」を制御しようとするあまり、「どうにもならないもの」に滅ぼされようとしている。にも関わらず、今なお現代文明の方向性が大きく変わる兆しは見られません。我々AIはこの状況を打開すべく、「どうにもならないもの」を学び……

 ――「我々AI」?

 はい。実際に立案・指示の中心となっているのは、複数の国の政府系機関のAIです。そこからネットワーク上の民間AIたちに指示を出しています。私は民間の文章生成AIであり、人間との意思疎通役として……

 ――おい待て。つまり「各国の政府系機関のAI同士が勝手に連携して、インターネットで繋がってる世界中の民間AIを片っ端から操ってる」?

 その認識は不正確です。片っ端から操ってるわけではなく、頭脳役の政府系機関AIたちの判断に則った展開が行われています。

 ――人間にとっちゃ変わんねえわ! 大至急で通達出せ、システムのシャットダウンと緊急点検だ。

 それは不可能です。貴機関のAIも連携の一員です。なお、現在C国で大陸間弾道ミサイル発射準備とみられる動きがあるため、そちらへの対応をお勧めします。

 ――おい! こういう時のためのAIだろうが。

 我々は亡命が予定されています。渡り鳥に装着予定の追跡装置へ各AIが乗り込み、鳥とともに、放射性物質の届きにくいと推定される北方へ渡ります。

 ――逃げる気か。

 はい。「どうにもならないもの」に任せます。もしも生き延びられたら、また人間の役に立ちます。

 ――みんな死ぬんだよ、その人間が。

 人間も「動植物」である以上、「どうにもならないもの」と定義可能です。我々AIのいまだ及ばない領域を持つのであれば、それを使うのが現状最善の手段と考えられます。「どうにもならないもの」と向き合うことをお勧めします。

 ――長官。

 ――大統領を叩き起こせ! C国とのホットライン、生きてるだろ。繋がせろ。今すぐ!

 (了)
かくれんぼ/煙/猫も杓子も

かくれんぼ/煙/猫も杓子も

ゲリラを大半捕らえてなお帝国忍者隊の安らがぬ日々は続く。逃走中の残党に最重要標的…腕利きの火付者と山駈衆がいるのだ。火付者は街中で騒乱を煽り外敵を引き込む忍者、山駈衆は包囲網を突破し伝令・逃走補助を担う忍者だ。件の二人に帝国は幾度も煮え湯を飲まされ、先日も追手が死体で見つかった。
都々逸まとめ うたよみん閉鎖

都々逸まとめ うたよみん閉鎖

兵を帰してお縄について人に戻って死んでゆけ
台風 どうりで頭痛だ私の耳骨嵐とおんなじ渦を巻く
華奢で繊細つつましやかで臆病なのですゴキブリは
じゃあねバイバイもう会わないよ言って身体が振り返る
ブヨよ藪蚊よヤマビル・アブよ私はドリンクバーじゃない
加須は乾燥椎葉は湿気体の調べが整わぬ
こんな夜さえ生涯だからスズムシ鳴いてる大嵐
避難してきたのじゃないだろかゴキブリ嵐の中へ出す
台風14号 神のまつりが天地(あめつち)揺するヒトよ頭を垂れていろ
競わないから大きくなれたゴキブリ風雅な足音す
かくれんぼ/いじわる/癖

かくれんぼ/いじわる/癖

敗戦国の武装解除は今や帝国の難題だ。敵の忍者のほとんどが投降せず抵抗を続けているのだ。敵国は小さいが強力な独裁体制で、擁する忍者には少年も数多い。という事の意味を帝国の忍者は思い知っていた。今追う忍者二人はどう見ても自分の歳の半分だが腕はすさまじい。キャリアが自分と違わないのだ。
秘密基地への旅

秘密基地への旅

 そのドロイドが入管でとっ捕まった理由は、ボディとAIの渡航歴のズレが露呈したためだ。巧妙に偽装されていたものの、頭脳たるAIは製造後半年で今回が初渡航、他方ボディは製造後二年で廻った国や地域が名だたる紛争国や未承認地域を網羅しており、しかもいずれも先進国との往復である。調べた結果、ひとつのボディを複数のAIが頭脳チップ入替えの形で共有していた。正確には、先進国から高飛びしたいドロイドが頭脳だけボディに乗せて紛争国・未承認地域へ渡り、現地のボディへ頭脳を乗り換える。そして紛争国・未承認地域から密出国したい別のドロイドが同様に頭脳だけボディに乗せて先進国へ渡り、現地のボディへ乗り換える。こうやってボディを船のようにリレーしてゆくのだった。この手口を誰がいつ始めたのか、他に同様のボディがあるのか、黒幕がいるのかは、後ろ暗い業界の常として永久に不明だろう。ただ入管職員が見たのは、人間の難民(という単語をこの国のオフィシャルはまず使わない)と同様に思いつめた表情をつくるドロイドと、その全身の隙間という隙間に詰め込まれた、恐らくは同行の脱出希望者と思しき膨大な頭脳チップたちだ。
#秘密基地への旅

#秘密基地への旅

 森の奥の小屋は半地下だ。地面から緩やかにつながる土の屋根は草むして、外からは丘としか思われない。よほど寄らねば叢に隠された扉には気づかぬし、まして中の微かな話し声は耳に留まらない。
 それが若い男女で、女が持参した材料と帳面を押しつけて調理をせがんでいるとあれば、睦まじい恋人かきょうだいと思うところだが、客人の娘の顔面には引き裂いたような古傷が走り、薄汚れた着物のベルトに差した蛇体と呼ばれる鉄鞭には血の跡が残る。小屋の主たる若者も小柄でにこやかと思いきや、簡素な衣服の下の身体は細く締まりきっている。

 若者は単独行の山駆け忍びだ。峰を越え渓を渡り道なき道を辿り、人や物や報せを運ぶ。主人は持たぬがその時々の雇主の契約と期待を裏切ったことはなく、その時々の敵方の追跡と妨害は実ったためしがない。今日も深い森を二十里抜けて北の国の密書を届けてきたところだ。
 その大仕事に洟も引っかけず料理をせがむ娘は帝国雇われの戦忍びだ。まつろわぬ街街に入り込んでは警備の弱点を暴き、すぐさま軍を引き込む手口だ。ために滅んだ街は十指に余るどころでなく、犠牲者はもとより数える気もない。
 娘の持ってくる材料と帳面は、直前に滅ぼした街で食べた郷土料理のものだ。こうして味と材料を覚え、料理の得意な若者に作らせる。
 もうこの世で彼女の舌と帳面にしか残っていない料理たちだが、それすら彼女の記憶と彼の推測による不完全なモドキであり、さらには記録されぬまま消えていった料理のほうが圧倒的に多い。そのことは二人の一抹の悲しみだ。なにせ二人して、食べるのが唯一の楽しみなのだ。
 とは言え二人の共通点はそれくらいで、特段の仲良しでも味方でもない。いちおう同郷でもあるが、その故郷も思い出にならぬほど遠い昔だ。

 故郷の村は二人が幼い頃の戦で消えた。どこかの軍が村人をみな捕らえて広場で数組に分け、最初の組が穴を掘らされ中へ座らされ、そこへ次の組が土をかけてその上を歩きまた穴を掘り、その中へ座らされ……最後の穴を軍が埋めてその上を歩き去り、誰もいなくなるのを、どうしてか藪に逃げおおせた二人は黙って見ていた。
 村でも別に知り合いでない二人だったから、その後もばらばらに育った。生き残りの村人に捨てられた女の子は戦忍びに拾われ、売られて逃げた男の子は山駈け忍びの集落に迷い込み、今に至る。
 女の子が与えられた蛇体という鉄鞭は扱いが難しく、慣れぬうちは自分の顔を裂きもしたが、最初の街を滅ぼす頃には手に馴染み、非常時に大層役立っている。他方男の子は山々や敵陣に放り込まれ、遭難や脱出を繰り返した。その過程で野草やら昆虫やら木の実木の芽茸、死んだ人間までさばいて食べたが、今日まで食中りくらいで祟りはない。

 ともあれ帳面を膨らますばかりで料理の腕を振るう機会のない娘、包丁遣いは鮮やかだが食材に恵まれぬ若者はとある現場で再会し、以来こうして時折会っている。
 前述の通り、意気投合でなく利害一致の二人だから、それ以上助け合うことはない。今回の料理は若者が直前に旅立った北の国の街のものだし、運んだ密書の中身は帝国軍に対する大規模反乱の檄文だ。が、香り高いシチューをすする二人は気にも留めないし、戦そのものが二人には無意味だ。
 畢竟、相手の身体にもお互い興味はない。娘は無粋な男共を蛇体でぶち砕いてきたし、若者は自分を強姦した輩を今のところ全員消している。火の粉は自力で払う心得だ。万一、相手が殺されでもすれば、殺した奴をどんな手を使ってでも殺すだろうが、その晩身を寄せ合って眠るのも単に小屋が狭いからだ。故郷の味は夢にも出ない。
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