小噺帖

小噺帖

極小一次創作。よそで作った三題噺や都々逸の一時的集積所。
極小一次創作。よそで作った三題噺や都々逸の一時的集積所。
三題噺

三題噺

煙草/乾き/シュレディンガーの猫
家の老猫が隣の犬を呪うとか。追いかけ回され車に撥ねられかけたからだそうだ。どこで覚えたのか尾を二股に割りドロドロ言う煙幕付きで突撃していったが、大喜びで尻尾を振るテキに迎えられ、尾の数が自分より圧倒的に多く見えるとの理由であえなく敗走。屈辱で霊力が増しており別の意味でなんか怖い。

嘘/白衣/猫も杓子も
何に倣ったか尾を九本に増やした老猫が隣の犬にリベンジを計る。が、やはり大喜びで出迎えたテキは誰に習ったか頭が三つに増えており、三つの頭に尾を三本ずつ追われて現場は大混乱である。ほうほうの体で逃げ帰ってきた老猫は作戦を変えるとかで僕の部屋にこもり、何やらブツブツ本を読んでいて怖い。

かくれんぼ/煙/猫も杓子も
何で読んだか老猫が隣の犬小屋の鋭角の屋根に狙いを定め、そこから青黒い煙が立ち昇るや犬を置いて脱出。しかしテキは鼻の効く生物のこと、刺激的な悪臭が漂いだすや三つの頭でハクションを連発、風圧と鼻水で煙はあえなく霧散した。物陰から一部始終を目撃した老猫はついに全面対決を決意。もう怖い。

月/マフラー/シュレディンガーの猫
いつの世のつもりか、月夜に老猫は正体不明のヒーローよろしくマフラー姿、隣近所の猫共お誘い合せで出陣。迎える犬が月光に吠え、方々の犬共も呼応し正に一触即発。しかし犬を嫌う猫の気持ちと猫と遊びたい犬の気持ちが重なって両立、めんどくさくなった猫が解散して無効試合。老猫が不貞腐れて怖い。

カーテン/茶髪/猫かぶり
やけになったか老猫が正攻法とて隣家にカラ身で突撃。犬猫交えてギャオンギャオンが始まった。と、出てきたのは隣家の美人お姉さん、「あらあらどうしたのー」の声に犬猫同時にお腹を出して全面降伏。臆面もなく可愛がられる姿を窓から呆然と見る僕に気づいた老猫が睨んできた。次の標的は僕か。怖い。
三題噺(完結)

三題噺(完結)

首筋/小鳥/不意打ち
誰も知らなかったが政変は終わっていなかった。かつての将軍派の流れをくむ者たちが北部で突如叛旗を翻し、首都目指して進軍中という。こちら東部の最果てに報せが入ったのは三日後で、ここまで飛び火はせんだろうと他の兵士は呑気だが、それ以来蒼服の少女を見た者がおらず少年兵はじりじりしている。

制服/小鳥/不意打ち
しかし東部の砦への襲撃は迅速だった。クーデターを察知した現指導部が密かにこの東部を抜けて隣国へ飛んだのだ。兵舎を占拠した旧将軍派は兵士たちに現指導部の行方を吐かせようとしたが、知る者はなく、業を煮やした旧将軍派は見せしめとして戦場の沈黙でもって染めた特注の拷問帽を少年兵へ被せた。

刃物/前髪/不意打ち
首から上を拷問帽にすっぽり覆われ、物みな死に絶えた沈黙を聴かされた少年兵が失神する寸前、縛られているはずの掌に冷たい何かが触れた。何かは手の上をそっと滑る。それが「ゆき」という字なのを少年兵は感じた。蒼服の少女に教えた数少ない字のひとつだ。ゆき。ゆき。死の沈黙は雪の静寂へ変わる。

バイク/前髪/不意打ち
少年兵が拷問帽を外された時、周囲の旧将軍派はみな凍死寸前で捕縛されていた。時同じくして、首都の旧将軍派も同様に凍死寸前で壊滅との急報が届いた。なんでも、旧将軍派はかつて一人の少女を囮に逃げ、彼女を殺したのが現指導部だと、議事堂の壁に氷で拙い文字が残っており、どうしても消えない由。

怒らないで/指輪/不意打ち
少年兵は少女に残りの文字を教えている。何せ教える側も教わる側も素人とて時間が要りそうだ。旧将軍派も元指導部も体制を立て直せず、首都では連合野党が議会制整備中とか。東の砦も解散の噂があるが先行き不透明で、兵でなくなるかもしれない少年兵は少女に掛けた自分の上着を春の陽光で染めている。
菓子三題噺 幕間

菓子三題噺 幕間

餅/噛み癖/癖
囲炉裏で炙った餅へ丹念に砂糖醤油を塗しながら、老主人は自分の死後この家を引き取れと縁起でもない。毎度なので聞き流しつつ餅に食らいついていると、君は菓子職人だからきっと活かしてくれると言う。彼の余命はさておき、確かにこぢんまりしながら風格のある家だ。お客様が寛いで菓子を楽しめよう。
菓子三題噺6

菓子三題噺6

ココア/白衣/サヨナラダケガ
ガラスケースの二段ケーキの表面をマーブルチョコが埋め尽している。カラースプレー付きドーナツを連想したがスケール段違いだ。最近こんな注文が多くてとパティシエは苦笑だ。人気店なのだ。お嬢さんは? 本題を切り出した僕に、また家出と相手は顔を顰める。先日彼女を裏カフェごと補導したのは僕だ。

ココア/鳥/恥ずかしい
娘さんが裏カフェ店主のビニールハウス周辺で目撃されたという情報を僕はパティシエに伝えたが、行方不明中の屋台の塗装に既視感があることは言えなかった。捜査継続を約して帰る際にケーキを勧められたが、残念ながら公務員の身とて丁寧に辞した。ココアとマシュマロどっちが先かはついに聞き忘れた。
菓子三題噺5

菓子三題噺5

ベッド/前髪/蜂蜜
眼前にホットケーキが座布団よろしく山積みになっている。いやパンケーキか? とにかく相手は裏カフェ主人と名乗った。いや店主? 混乱をよそに店主は力を借りたいと言う。植物園の植物をみな移し、菓子を植物から育てる計画とか。カカオも? 当然。スパイスも? 無論。蜂は? いいよ。チャンス? 何かの罠?

黒猫/ピアス穴/蜂蜜
承諾の印に引き寄せたパンケーキは全部色違いで、琥珀糖のイメージだという。上の絵柄はどうしてかタコでどうしてかブルーベリーの紫だ。このパンケーキは仲間候補のシンボルだそうで、秘密結社の旗みたいなもんだよと店主は言う。さて君は蜂蜜かな? チョコがいいです、いえカカオドリンクがいいです。
三題噺

三題噺

天使/鳥/映画
雨の日曜、納戸で見つけた赤いトイピアノを弾いていると、天使と手を繋いだワンピースの女の子が出た。病気で亡くなったこの屋敷の子といい、天使と二人で合唱していた。人間には聞こえない歌だが、「埴生の宿」だと分かる。庭では鴉が木の枝からじっと動かず、天使の立っていた台座が雨に濡れている。

天使/扇風機/映画
蚤の市で買ったフィルムを回している。部屋は映写機のからから回る音と古ぼけた扇風機の音。どこかのホームビデオの中、ワンピースの女の子が無言で踊る。と、その子に被るように現れた人影。背中に羽を持ち、こちらへ向けて顔をしかめて舌を出した。瞬間、フィルムがあっという間に燃えて無くなった。
菓子三題噺4

菓子三題噺4

炭酸/蝶々/大嫌い
裏カフェが摘発された。常連だったどこかの学生が親にバレたのが原因らしい。店主は逃げ切ったようで空の屋台が転がっている。コンビニのラムネは安い味で、プラ瓶越しに無数の泡が舞うタコ滑り台はやっぱり落書きだらけだ。俺はその上から青スプレーを吹いた。ありったけ吹きつけてもまるで足りない。

炭酸/ピアス/雨垂れ石をも
屋台を引いて行こうとする女子高生を止めると、いや私が貰う約束だからと言う。固そうな外見に合わず自分で開けたらしいピアスが光る。いや祖父さんの残家財で作った屋台だし塗装も俺だしと言うと、いやカラー綿飴売るしと言う。いやそこは琥珀糖ソーダだろと言うと、それ自分考えたんでとドヤられた。
菓子三題噺3

菓子三題噺3

財布/チョコ/夜
カカオを育てる畑が欲しかったが、そもそも日本ではまず育たないらしいうえ、街路樹の根元へ勝手に植物を植えてはいけないそうだ。仕方なく、カカオを鉢に植え替え、夜中に近所のビニールハウスにそっと置いておいた。よく考えたら砂糖も要るので、明日また園芸センターに行ってサトウダイコンを探す。

色白/チョコ/いたちごっこ
サトウダイコンは寒い場所でしか育たないらしいのでサトウキビを買って帰ると、ビニールハウスからカカオが出されていた。仕方なく、カカオとサトウキビの鉢を夜中に近所の植物園の温室にそっと置いておいた。よく考えたらスパイスも要るので、明日また園芸センターに行ってバニラとトウガラシを探す。

制服/チョコ/ブラック
バニラとトウガラシを買って帰ると、植物園の温室は閉め切られ真っ暗だった。経営破綻していて昨日が最終日だったとか。仕方なく、夜中にガラスを割って鍵を開け、カカオとサトウキビを運び出した。他の植物たちの濃い匂い。滅んだ植物園に彼らが残されたのか、彼ら以外滅んだ世界に僕が残されたのか?
菓子三題噺2

菓子三題噺2

ココア/マシュマロ/満たされる
カップ一杯のココアにマシュマロを浮かべるか、カップ一杯のマシュマロにココアを注ぐかで意見が割れた。僕はマシュマロが綺麗に見えるから前者、友人はマシュマロがちゃんと溶けるから後者。空家の不要な残家財を燃やす火で湯を沸かしながら、ところで牛乳入り前提かと友人が再び不穏な言葉を発する。

嘘/マシュマロ/映画
空家は友人の祖父の家だった古民家だ。二十畳敷ほどの大きな広間を友人はミニシアターにしたがっている。床の間側がスクリーンで席はビーズクッション寝転び自由と夢は尽きない。焚火でマシュマロを焼こうとするから、残家財の薬品が付いたらどうすると止めるが、祖父さんの念が着くぜと口が減らない。

月/マシュマロ/甘党
実のところ古民家は人手に渡ることが決まっており、残家財は今週中に処分せねばならない。夜までかかってあらかたの家具を始末し終え、残りは週末に回した。古着や戸棚を燃やして爆ぜる焚き火をじっと見る友人はさっきからずいぶん無口だ。とりあえずクッキーに挟んだマシュマロは旨いと合意に至った。
菓子三題噺1

菓子三題噺1

制服/砂糖菓子/夜
学校帰り、裏カフェに寄る。自前で直したオンボロ屋台をキッチンカーと言い張るのには閉口だが、これの方が夜に似合う気もする。ワンコインでドリンク(半欠けの湯呑に焙じ茶)をもらい、スイーツ(木枠で仕切られた金平糖やらガムやら煎餅)を選んでよい。もう十円出せばミニ麺にお湯を入れてくれる。

傷跡/砂糖菓子/猫も杓子も
裏カフェはスイーツもリサイクルで、スーパーの期限切れの琥珀糖が今日のメインだ。ドリンクをソーダにしてもらって琥珀糖を入るだけ入れ、カフェの置かれた公園の街灯に透かす。ごみだらけの公園もその時だけは流石に綺麗に思えるが所詮は錯覚で、私がそう言うと店主は違いないねと隠すそぶりもない。

耳/砂糖菓子/トランス
この公園を買い取るのが裏カフェ店主の夢だ。落書きだらけのタコ滑り台もヒョウモンダコ色にして、中でカフェをやるそうだ。ケーキとかも出すよと夢見がちだが、もんじゃか何かだろうと睨んでいる。内緒だがその時は学校をやめて屋台で二号店をやる。学校に店の噂だけ流してそっとカラー綿飴を売る。
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