小噺帖

極小一次創作。よそで作った三題噺や都々逸の一時的集積所。
極小一次創作。よそで作った三題噺や都々逸の一時的集積所。
054:子馬

054:子馬

 馬房の管理不行届でうっかりスレイプニルとペガサスの交雑を許してしまい、八本足のうえ翼一対の個体が生まれてしまった。
 むろん仔に罪はないので大事に育てているが、なにぶん肢が十組である。維持にエネルギーが要るのか随分と食う。おまけに疲れやすいようで、頻繁に水を飲む姿が見られるので気をつけていたところ、馬場へ放した時に池へ向かっていく。嫌な予感がして追いかけると案の定、池の中の囲いからケルピーが顔を出して何やら囁いている。曰く、自分とつがいになれば、生まれた仔は陸海空を制覇する存在になれると。
 馬鹿(馬だけに)を言え、親のエゴで子供の人生(馬だが)を左右するんじゃない。ケルピーを一喝し、仔を連れて戻った。だいいち、ケルピーにはお生憎様だがそもそもこの仔に繁殖能力は無いのだ。
 馬房で、隣の房のユニコーンの先日抜けた角を仔に舐めさせる。毒消し効果はデマではないらしく、だいぶ元気が出た様子だ。
 ユニコーンの角は昔からお土産品には人気で、これを売れないのは痛いが、やはり大事なのはわれわれ馬たちの命の方である。
 ケルピーの言うことは分からんでもない。神話生物が絶滅危惧種になって久しいにも関わらず、こうして保護設備が整い始めたのはごく最近だ。神話生物に限らず、現代の大量絶滅の主要因たる人間の意識などその程度で、ならば滅ぼされる前に自分たちが進化し、とって代わろうというのだろう。スレイプニルとペガサスも、あるいは納得ずくかもしれない。
 だから、恐らく彼らは私……「人間側代表」たるスタッフには何も明かさないのだ。
 であっても、神話生物のため私は私の立場でしかできないことをしているつもりだ。神話生物はデリケートな存在だけにノウハウのあるスタッフの確保は喫緊の課題であり、この施設ではベターな案として同じ神話生物をその任に充てる策が取られている。足元に寄ってくる仔馬とて、私とて、数少ない同胞に変わりないではないか?
 お察しの通り私はケンタウロスだ。
菓子三題噺11(終)

菓子三題噺11(終)

黄/餌付け/八重歯
私ねえ食べ物で遊んでいいと思うんですと店主。ちゃーんと全部おいしく食べるならね。食べ物「と」遊ぶってのが正しいかな。言いながら店主は巨大クッキーを余った菓子で飾り始める。カラーチョコ、ケーキ生地、綿飴にゼリーに果物。多様なそれらは色のみで分けられ、雑多で美しいモザイクの虹となる。

黄/ピアス穴/憂鬱
そのためにはまず調和と落ち着き大事、同意ですね、それでこそこっちのハジけ甲斐もあるってモンで。店主の言葉に、違いないなと老王が出してきたのはクチナシの黄も艶やかな大粒栗きんとん。さてどうするね、ニヤリと問われた店主もニヤリ、綺麗に片付いた作業台へ老王含め全員を招く。さあお祭りだ。

黄/カッター/災い転じて
藍の縞模様の大皿へ店主、栗きんとんの粒を点々。五線譜を形どるそれへ芋餡を添えてLet’s JAM。警官もとい栽培マン、栗楽譜に和して生チョコを点々。その譜面を鉄琴もとい七色のソーダグラス琴で奏でる女子高生、ソフト飴製トロンボーンのパティシエ。合わせてスプレー男がポップコーンを盛大に弾く。

赤/落し物/はじめて
かくて出現した「動的菓子」に店主と栽培マンが缶入りナッツを振って砕くナッツマラカス、老王が茶筅の音も細やかに加わり、ここに成立した大々的なセッションを経て今夜完成した全ての菓子を茶とともに全員が楽しんだ。最終結果として契約が結び直され、老王はパティシエの新店舗のパトロンとなった。

赤/会いたい/サヨナラダケガ
改修した公園内の移築古民家は腕利きパティシエの菓子でくつろげると評判で、隣室の畳に寝転んで映画を見ながら食べてもいい。園内植物園の鬱蒼とした熱帯林の中の青いタコ滑り台では、森で採れた実を菓子に加工できる。時々、そこから出向いた屋台が近所の巨大複合施設で菓子セッションを催している。

(了)
菓子三題噺10

菓子三題噺10

白/爪/憂鬱
なら儂を唸らせてみるがいい。ラスボスばりに登場の白髭の老翁に店主以外全員唖然、聞けば不動産王かつ古民家の主人で甘味と祭騒ぎに目がない奇人。公園と植物園を再開発した跡地の複合施設にパティシエの店のリノベ古民家が入る旨、嫌なら今勝ち取れと老王。面白いから最終戦にお招きしたよーと店主。

白/落し物/腰痛
じいちゃん病院はとスプレー男。若い連中にウジウジされちゃ入院もできんわと老王、言うまでもなくスプレー男の祖父。じゃパパ根性決めてママと組みなよと女子高生。言うまでもなく裏カフェ主人はパティシエの妻。スプレー男は僕に、お前チョコで援護射撃な。言うまでもなく僕=警官=チョコ栽培男だ。

白/一重/胸元
かくて役者が揃い、まずは小手調べ。老王が立てた茶はえも言われぬ芳しさと共に一同の腹中に落ち、続く練り切りは互いを更に高めつつあくまで穏やかだ。ワシの複合施設はこうあるべきだ、全施設が噛み合い、人々の必要と楽しさを満たしながら安らぎを旨とする。練り切りの形どる施設ロゴは単純な美だ。
らくがき山脈

らくがき山脈

 らくがき山脈に首尾よく入り込めたのはすぐに分かった。
 頭上は殴り書きの言葉に鬱蒼と覆われ、腰から下に延々繁る藪と見れば奇怪にのたくる線だ。辛うじて分け行った獣道を、走り描きの動物が時折よぎる。
 すごい。宝の山だ。初日だけで何万再生稼げるだろう?
 当然というか、スマホは圏外だ。なにせ山中だ。想定内なので気にせず、僕はカメラを夢中で回した。

 この世の落書きという落書きがひしめいているという山脈の存在は都市伝説で知っていた。
 なにげなく書き付けた言葉。文具売り場の試し書き。退屈な会議中の落描き。書きながら寝落ちした時の正体不明な線。人の手で書かれながら意味を持たないものがみな集まり、森となり山となって延々続いているというのだ。だが実際の現地レポートは未だひとつもなく、噂は噂の域を出ない。
 誰もが身に覚えのある、しかしまだ誰もたどり着いていない場所。
 実況中継がだめでも、せめて動画として公開できたら。
 世界的動画サイトの泡沫配信者である僕としては、ノドから手が出るような案件だった。
 
 滝よろしく流れ落ちる文字たちはラブレターだったらしい。こちらが頭を抱えるレベルで恥ずかしい言葉が眼前を次々よぎり、撮影しながら僕は一生分笑い転げた。ときどき入る女の人の名前がきっと恋の相手で、この地で見つかったからにはこの手紙は出されなかったのだ。
 固有名詞の部分にはモザイクを当てればいい。誰かの黒歴史かもしれないが、せっかくの手紙だ。日の目を見せてこそ成仏できるってもんだろう。僕は動画に名前を付けて保存し、心の中でそっと両手を合わせた。
 周囲に動物が何匹か集まってきた。どれもこれもつたない線だ。記憶だけで描いたらしい猫(?)。有名ゲームからパクられた不細工なモンスター。一匹ずつ長めにカメラを向けてやった。

 そんなこんなでたっぷり数時間カメラを回し……違和感に気づいた。一度もメモリーカードを替えていない。
 いくら何でもメモリー数はそこまで多くない。慌ててフォルダを見返すと、保存したはずのデータは空っぽだった。
 呆然とし……思い当たった。
 もしや。
 ここは、らくがき山脈。無意味な書き付けばかりが集まる場所。
 ということは。
 目的をもって作られた情報は、この地に存在できないのだ。例えば、公開するために撮られたデータなどは。
 がっくり来て、僕は思わず座り込んでしまった。
 ――と、恐ろしい可能性に気づいた。
 ぞわっとした。慌てて周囲を見る。
 ここまで来る道々、ずっと木に刻んでおいたのだ。帰るための目印を。
 無い。やはり無い。
 いや、それだけではない。
 目的をもった情報は、ここでは存在できない。つまり、僕が外へ助けを呼ぶ手段を作ることも不可能なのだ。スマホの電波が圏外なのも当然だった。
(いや、待て)
 不意にひとつの可能性を思い出した。
 ここに来る直前に上げた動画に、予告編を付けておいたのだ。「次回、らくがき山脈配信チャレンジ!」と。
 万一、万万が一、それを観た誰かが気づいてくれたら……
〈次回、らくがき山脈配信チャレンジ!〉
 至近距離の大音量に心臓が止まりかけた。見ると、すぐ横の池に僕が映っている。――正確には、僕の動画が。
 僕は呆然とそれを観た。これがここにあるということは……
 この動画、僕の唯一の命綱は、元の世界で削除されてしまったのだ!

 * * *

  らくがき山脈にうまく入り込めたのはすぐに分かった。
 すげえ。宝の山だ。初日だけで何万再生行くかな?
 他の配信者がらくがき山脈突撃の話を先に出したのには焦った。どうしたって俺が一番乗りしたかった。
 だから、そいつの動画にイチャモンを付けて、運営に消させてやった。そしてもちろん、独りでここへ来た。
 ……まあやっぱり、スマホは圏外だ。山なわけだし。予想はできたから気にせず、俺はカメラを夢中で回した。

(了)
俳句まとめ

俳句まとめ

鉄柵に鳩の足音冬の朝
しみしみとカレー喰む短日の席
好きなのは白無地ノート冬曇
春近くとも満タンの灯油缶
たんぽぽを思わず避けて草刈機
不幸/一重/憂鬱

不幸/一重/憂鬱

花に花言葉、石に石言葉があるように、虫にも虫言葉があるのですとカマドウマが言う。自分は「勇躍」。カメムシは「一念」。テントウムシは「仲良し」。どれも縁起物でしょと言うので思わず越冬阻止のバルサンの手を止めた。もっとお教えしましょうという彼に訊きたいが訊けない。ヒト言葉はあるのか?
背伸び/マフラー/駄目なひと

背伸び/マフラー/駄目なひと

言うまでもなくこの世で最も低次元で野蛮な生き物は人間だ。知能という迷路にはまって無意味な闘争と破壊に明け暮れ、他のあらゆる生物を巻き込んでなお己を万物の霊長と信じて疑わない。その人間に寄り添う犬こそは全生物至高の存在で、最低の生物と共に生きる苦行を経て彼らは涅槃へと解脱してゆく。
バイク/独り言/シャングリラ

バイク/独り言/シャングリラ

近所の三文文士が締切前の大不調なので、戯れに居眠り中の奴の眼鏡に原稿用紙の升目を書いてやった。目覚めた奴は慌てて眼鏡をかけ漫画のように周囲を見回したが、案に相違して猛然と原稿を埋め始めた。それ以来、升眼鏡は奴の御愛用となったが、奴の口から出るのは森羅万象の乗り移った語りばかりだ。
絵

 スケッチブックは海の絵ばかりだった。船であるいは車でスケッチブックはあちこちの海へ運ばれ、そこに新しい人が新しい海を描き足した。ページごとに水の色も空の色もさまざまで、見た人は自分の知る海を必ずひとつは見つけ出せた。スケッチブックの出所は定かでないが、数十年前に廃番になったことだけは明らかだ。
絵

生物たちはぬるい水に漂い、てんでに泳ぎ、ときどき交配しては程よく殖えた。彼らは明暗を見分けることができたので、白から黒までのグラデーションの中にお互いの区別を明確に見出し、相手のうつくしさを讃えた。

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