盲目の謡唄いの先生は道を間違えたらしく、さっきから周囲の空気やら植物やらの感じがいつもと違うなと思いながら歩を進めると、何やら諍いの場に行き合った。
が、よくよく耳を傾けると、がらの悪い人々がしきりと誰かを遊びに誘っているようで、酒を呑もうだの女のところへ行こうだの景気がいい。肝心の誘われている人は黙りこくっており、話が進展しないところを見ると(否、聞くと)誘いに乗る気はなさそうだ。あるいは、事情があって行けないのかもしれない。ならせめてこの場で楽しんでもらおうと、先生は得意の琵琶でもって明るいやつを唄い始めた。
実のところ先生が迷い込んだのは異世界で、悪魔たちが聖人を堕落させようと誘惑している最中だった。が、根が遊び好きの悪魔たちのこと、先生の謠を聴いて即興で歌って踊りだし、たちまち陽気なセッションが始まった。
ほっぽり出された聖人は目の前の騒ぎに我慢ならず、全員怒鳴って追い出そうとしたが、それも負けた気がして悔しく、ついに自ら踊りの輪に飛び込んだ。
かくて全員の思惑がずれたものの、聖人は後に風狂と頓知を旨とする新たな宗派の祖として名を残した。