小噺帖

極小一次創作。よそで作った三題噺や都々逸の一時的集積所。
極小一次創作。よそで作った三題噺や都々逸の一時的集積所。
三題噺(完結)

三題噺(完結)

首筋/小鳥/不意打ち
誰も知らなかったが政変は終わっていなかった。かつての将軍派の流れをくむ者たちが北部で突如叛旗を翻し、首都目指して進軍中という。こちら東部の最果てに報せが入ったのは三日後で、ここまで飛び火はせんだろうと他の兵士は呑気だが、それ以来蒼服の少女を見た者がおらず少年兵はじりじりしている。

制服/小鳥/不意打ち
しかし東部の砦への襲撃は迅速だった。クーデターを察知した現指導部が密かにこの東部を抜けて隣国へ飛んだのだ。兵舎を占拠した旧将軍派は兵士たちに現指導部の行方を吐かせようとしたが、知る者はなく、業を煮やした旧将軍派は見せしめとして戦場の沈黙でもって染めた特注の拷問帽を少年兵へ被せた。

刃物/前髪/不意打ち
首から上を拷問帽にすっぽり覆われ、物みな死に絶えた沈黙を聴かされた少年兵が失神する寸前、縛られているはずの掌に冷たい何かが触れた。何かは手の上をそっと滑る。それが「ゆき」という字なのを少年兵は感じた。蒼服の少女に教えた数少ない字のひとつだ。ゆき。ゆき。死の沈黙は雪の静寂へ変わる。

バイク/前髪/不意打ち
少年兵が拷問帽を外された時、周囲の旧将軍派はみな凍死寸前で捕縛されていた。時同じくして、首都の旧将軍派も同様に凍死寸前で壊滅との急報が届いた。なんでも、旧将軍派はかつて一人の少女を囮に逃げ、彼女を殺したのが現指導部だと、議事堂の壁に氷で拙い文字が残っており、どうしても消えない由。

怒らないで/指輪/不意打ち
少年兵は少女に残りの文字を教えている。何せ教える側も教わる側も素人とて時間が要りそうだ。旧将軍派も元指導部も体制を立て直せず、首都では連合野党が議会制整備中とか。東の砦も解散の噂があるが先行き不透明で、兵でなくなるかもしれない少年兵は少女に掛けた自分の上着を春の陽光で染めている。
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