小噺帖

小噺帖

極小一次創作。よそで作った三題噺や都々逸の一時的集積所。
極小一次創作。よそで作った三題噺や都々逸の一時的集積所。
見る/クローゼット/審判

見る/クローゼット/審判

経営改革で極楽と地獄が合併、成功している。生前強欲だった金持が灼熱の厨房でボロ前掛一丁で作らされる料理を善男善女が味わい、その便所の先の糞尿地獄は功徳を積んだ蝿の極楽を兼ねる。成功も道理、これこそ現世そのもので、それに気付いて以来閻魔庁はこれら死者の行いをも来世の目安としている。
好奇心/ガーネット/運命の輪

好奇心/ガーネット/運命の輪

その村は建築物から行事風俗まで伝統の宝庫だ。が、どの世帯も五代前から昔の祖先は具体的な名前も家族構成も一切伝わっていない。家系図は散逸、古老の記憶も自らの祖父母辺りが限度で、まるでそこから村が始まった風だ。最近開発で伐採された近辺の巨木の年輪は皆、百五十年前付近が明らかに赤黒い。
戒める/レコード/調整

戒める/レコード/調整

祖父の日記は日々の雑感も俳句やスケッチもさらっと軽妙だ。が、次第に文も絵も別人のように仰々しく硬く変貌し、終り近く「見るな、見るな、見てはいけない」と殴り書きの後は憑物が落ちたように元の筆致だ。訊けば当時いた文芸愛好会全員が同じ症状で解散した日、巨大な烏が飛び去る幻を皆が見た由。
切ない/鉱物/貪欲

切ない/鉱物/貪欲

夢の中の物を決して持ち出すなとあれほど禁じたのに息子が小石を蓄えていた。死んだ妹が川辺で積み重ねる物だそうで、こちらで鬼どもに壊されずに積むのだと言い張る。あちらの物を持ち出したら替りに何かがあちらへ行くのだ。それが証拠に、私の左の目と耳が冥い河原で泣く娘に釘付けのまま離れない。
悪態をつく/窓/皇帝

悪態をつく/窓/皇帝

家の鍵を無くした。仕方なく友人宅に一週間泊まり鍵を換えて帰ると中に痩せた貧乏神がいた。留守中に非常食を食い尽くしており、お帰りなさいませ何か作れと図々しく三つ指つくのを放り出したが、独居会社員で定時に帰れるのはお前位だから行く宛がないと、どっちが不幸か判らないような事を言われた。
見る/薔薇/醜悪

見る/薔薇/醜悪

雨は嫌いだ。傘に篭って道行く人が人に見えない。ある傘はその下に一叢の薔薇を咲かせ、別の傘は二本脚の兎を宿し、或いは見知らぬ街並みを覆い、静々と雨中をゆく。それが各人の前夜見た夢の有様と知ったのは、傘の下の友人が化物に見えた日だ。見た夢を憶えていられないこの私はどのような姿だろう。
戒める/幻/恋人たち

戒める/幻/恋人たち

狐なので人語は解さないが心を読め、良人の姪が訪ねて以来良人に茗荷を出している。想う人を狐に取られ望まぬ結婚を控え、姪は自分に一服盛ろうとまで思いつめたらしい。良人を返そうと思ったが離れ難く、せめて自分を忘れさせたかった。だが同じく心を読める良人が噛む花の名…勿忘草を狐は知らない。
愛しむ/お菓子/醜悪

愛しむ/お菓子/醜悪

山奥の叔父は私の牡丹餅に相好を崩し、案の定重箱を狐娘に預けた。彼女はぺこりと一礼して下がり、程なく奥から三匹程が重箱をあさる音。弟妹狐だ、迂闊にも忘れていた。毒餅などやめて本当に良かった。総身に冷や汗で顔を上げると叔父と目が合った。途端、何かが私の中で切れ、どっと涙が堰を切った。
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