小噺帖

極小一次創作。よそで作った三題噺や都々逸の一時的集積所。
極小一次創作。よそで作った三題噺や都々逸の一時的集積所。
抱きしめる/約束/星

抱きしめる/約束/星

狐なので人間の街は不案内だが良人が心配で後をつけた。が、街の入口でバテてしまい良人に気付かれた。何か閃いた良人はひょいと自分を抱えて胴を風呂敷で包み、人間の赤子のていであやしつつバスに乗る。可愛いでしょう僕に似てますかと堂々たるフカシに他の客は正しく狐につままれた顔で目をこする。
薬/葉っぱ/いたちごっこ

薬/葉っぱ/いたちごっこ

川っぱたにカワウソやイタチが集まり、石の上にカワウソは魚を、イタチは葉っぱを並べている。魚市か薬草市かと一匹に訊くと、祭典ですと言う。なるほど獺祭だね。いいえコミケです。魚の鱗や葉っぱに物語を書くそうで可笑しかったが、考えれば「獺祭」は文学用語だし「言葉」も大昔は葉に書いたのだ。
黒/マフラー/恥ずかしい

黒/マフラー/恥ずかしい

出会った瞬間、彼女と彼は互いを理解し、二着のコートが即座に取り替えられた。赤をまとった彼女の短気も、青をまとった彼の泣き虫も相変わらずで、周囲は落胆したが、二人は相手の服の色が見えた方が便利じゃないかと意に介さず、今日も一対のコート、お揃いの赤青縞のマフラーで曇天の街を闊歩する。
赤/雨傘/数式

赤/雨傘/数式

彼が真っ赤なコートを着せられたのは泣き虫のせいだ。始終べそべそ湿っぽい彼は曇り空の多いこの街をなお暗くした。これで気も晴れるだろうという周囲の声に反比例して彼の嘆きは増す。僕はしんと静かな青がいいのに。と、街ですれ違う一人の女。曇天にも艶やかなそのコートは彼の望んでやまない青だ。
青/煙/数式

青/煙/数式

彼女が真っ青なコートを着せられたのは短気なせいだ。曇り空の多いこの街には始終かっかと火を吹く彼女は熱過ぎた。これで落ち着くだろうという周囲の声に彼女の苛々は加速度的に増す。あたしはぱっと明るい赤がいいのに。と、街ですれ違う一人の男。曇天にも鮮やかなそのコートは彼女の焦がれた赤だ。
嫉妬/雪/甘党

嫉妬/雪/甘党

やたら物置へ行きたがる少年兵を、すわ憑かれたかと先輩兵士は部屋へ閉じこめた。翌朝は真夏だというのに一面の霜、草花がみな黄色く霜枯れた。彼女の仕業だ、文字を教える約束をしたのに行かなかったからと少年兵が言い、葉を指さした。葉の一枚一枚についた傷は確かに、下手くそな文字にも見える。
青/雪/はつこい

青/雪/はつこい

幽霊話のある兵舎の物置へ度胸試しに放り込まれた少年兵が翌朝、真夏だというのに凍死寸前で見つかった。なんでも、青服を着た見知らぬ娘に、氷のように冷え切った躰で抱きつかれたそうだ。お前逃げなかったとこを見るとまんざらじゃないなと笑う先輩に少年兵は顔を赤らめ、寒そうだったのでと呟いた。
蝶/星空/ぽつり

蝶/星空/ぽつり

今年も蝶がひらひら寄ってきた。羽を見ると私宛ての恋文である。戦に取られ死んだ前夫からだ。お前が恋しい時は蝶に心を託すなどと柄にもない事を言ったせいか虫けらのような最期だったそうだ。今の夫と結ばれたいばかりに前夫を戦に出したのは私だ。まとわる蝶は目をつぶっても闇にちらつき離れない。
(都々逸)

(都々逸)

合格祈願と黒々書いた文字のぶんまで重い絵馬
はいしいはいしい歩めよジイジ腕白大将乗せてゆく
富も平和も偏る世界襲う爆風だけはフェア
怒らないで/悪趣味/トランス

怒らないで/悪趣味/トランス

また水上の人間どもが人身御供の娘をよこした。仕方なく私は泣いている娘を連れて洞穴を抜け、花畑へ赴いた。ここには代々の人身御供を住まわせており、果実も花の蜜も好きなだけ採れる別天地だ。彼らは私を神と慕うがその名は私には重い。確かに私はこの川に棲んでいるが大水を鎮める力などないのだ。