ふたつの国は国境を高い石壁で隔てていた。いつからか、なぜか、誰も知らないが、どちらの国もお互いが嫌いだった。壁は目の届く限り延々と延び、いっさいの行き来を遮っていた。
その壁には小さなドアが造られている。最初に気づいた誰かの名は分からない。ごくごく親しい人の間でそっと伝わってきたからだ。ともかくドアは大人が腰を屈めてやっと通れる小ささで、落書きの中に巧みに隠されていた。
ドアの向こうは相手の国でなく、細長い庭だった。実は壁は二重になっており、そのあいだに一つの庭が国境の長さだけずっと続いていたのだ。庭を訪れた人は咲き誇るバラのアーチをくぐり、木漏れ日の下に憩い、まれに誰かに出会えばそっと会釈した。そしてごくごく親しい人にだけ秘密を明かし、誰にも言わぬようにと口止めした。
もしや相手の国にも同じドアがあり、今すれ違った人は敵かも。いや、ふたつの国の者たち全員がこの庭を知っているのかも。と、実は誰もが思っているが、誰も口には出さない。
片方の国の大統領ともう片方の国の将軍は、くたびれたシャツを着て庭のベンチで水筒のお茶を交換する仲だ。お互い、相手の名は知らない。