教員募集に応えて出向いた先は森の奥のツリーハウス村だった。
正確には廃村だ。開発ブームに伴い、樹上民族が政府命令で遠隔地へ強制移住させられた。村人は最後の抵抗として、独身成人男性の間でくじ引きをし、選んだ独りを村に残した。現行法では住民のいる場所を更地にはできず、政府はあの手この手で彼を追い出そうとしている。
指定された大樹に下がるベルを鳴らすと、手動エレベーターがするする下りて来た。樹上二十メートルのテラスで僕を大歓迎してくれた彼は十四歳、堂々の新成人だという。
この村を全寮制の学校にするんです。テラスから身を乗り出し彼は言う。ツリーハウスは全部回廊で結ばれてます。家一軒一軒を寮に、真ん中の集会場――この大樹の建物だ――を教室にすればいい。学校なら人もお金も集まるし、卒業後にこの村の事を外に話してくれる。何より(と言葉を切って)、
「この森の少数民族全てが勉強するようになれば、もう村を奪われたりしない」
そりゃあいいと頷きながら僕、もちろん政府の秘密工作員、は森を見下ろす。無数の命を抱いて眼下に果てしなくうねる森はなぜだろう、僕の心をざわめかせて止まない。