小噺帖

極小一次創作。よそで作った三題噺や都々逸の一時的集積所。
極小一次創作。よそで作った三題噺や都々逸の一時的集積所。
泳ぐ/骨/慈悲

泳ぐ/骨/慈悲

拾った万年筆が勝手に動き、絵を描き始めた。よく見るとどれも恐竜やら巨大魚類等の生物だ。訊けば万年筆でなく億年筆で、インクは絶滅生物が変質した石炭製とか。まだ絶滅していない生物は描けないらしいが、昨今消えたピンタゾウガメは出てきた。ドードーの絵がない事実は墓まで持って行くつもりだ。
泣く/ミルクココア/根源

泣く/ミルクココア/根源

夢に十八歳程の少女が出、貴方の娘になろうと思うのと言った。古典児童文学の主人公の一人で、ふいと仲間を外された展開が幼心にも理不尽だった。一念発起して撮った「彼女のその後」の自主制作映画がウェブで拡がる頃、彼女が再び夢に出た。庭の四阿でお茶を注いでくれながら彼女は百年分泣いている。
吐く/鉱石/星

吐く/鉱石/星

両親が鉱山労働者で、私は地底を遊び場に育ち鉱山へ勤めた。仕事上りは夜で、頭上はいつも銀河だ。ある日坑道で拾った石は星に似て、なぜか私はそれを呑み終生吐かないと誓った。死後、微かに光る石に導かれ、着いた先には一人の男。憶えがある、前世の恋人だ。彼は天、私は地を巡り、また逢ったのだ。
飲む/彗星/吊るされた男

飲む/彗星/吊るされた男

一年一度しか会えない織姫と彦星、彼らは幸いだ。心中で生き残った僕は天の川の補修材料集めを言い渡された。星の欠片を飲み宙へ放たれる時、地上へ生れ変った恋人の産声がした。七十六年の長旅で体内の欠片が長い尾となり尽きる頃、集めた材料と引換えに、地上の一生を終えた彼女の笑顔が僕を迎えた。
噛む/スカーフ/王国

噛む/スカーフ/王国

王様は王国のただ一人の国民だった。ある寒い年、王様は小さな王国をくるくる畳んでポケットに入れ旅に出られた。寒い世界を旅して他の王様方と会い、王国を寄せ合って布団代りに被られた。そこへ他の動物や花も入ったので王国は暖まった。その祝いのご馳走、土台に色々寝かせて温めた物が今のピザだ。
怨む/飴/愚鈍

怨む/飴/愚鈍

山奥の叔父が暫く下りて来ない。私も縁談中で訪ねてゆけず日々が無為に過ぎる。少壮の士官という相手が冷酷としか映らないのは叔父が頭にあるせいだ。あの狐娘は叔父と情を交わしたのだろうか。苛立つ思考はどうどう巡りに沈み、ある晩猫いらず入りの牡丹餅を作った。小豆は旨く炊けたから狐も喜ぼう。
眠る/髪飾り/夢

眠る/髪飾り/夢

明け方、横の妻はまどろんでいる。枕に波打つ髪の合間に彼女の夢が覗いていた。夢の中の妻は職人で、細かなモザイクタイルを一心に並べている。その模様を見たく、そっと髪を除けた。夢の妻が顔を上げ、ばちりと目が合った途端その姿は霧散し、妻が目覚めた。朝食に出た新しい皿はあのモザイク模様だ。