小噺帖

極小一次創作。よそで作った三題噺や都々逸の一時的集積所。
極小一次創作。よそで作った三題噺や都々逸の一時的集積所。
飲む/彗星/吊るされた男

飲む/彗星/吊るされた男

一年一度しか会えない織姫と彦星、彼らは幸いだ。心中で生き残った僕は天の川の補修材料集めを言い渡された。星の欠片を飲み宙へ放たれる時、地上へ生れ変った恋人の産声がした。七十六年の長旅で体内の欠片が長い尾となり尽きる頃、集めた材料と引換えに、地上の一生を終えた彼女の笑顔が僕を迎えた。
噛む/スカーフ/王国

噛む/スカーフ/王国

王様は王国のただ一人の国民だった。ある寒い年、王様は小さな王国をくるくる畳んでポケットに入れ旅に出られた。寒い世界を旅して他の王様方と会い、王国を寄せ合って布団代りに被られた。そこへ他の動物や花も入ったので王国は暖まった。その祝いのご馳走、土台に色々寝かせて温めた物が今のピザだ。
怨む/飴/愚鈍

怨む/飴/愚鈍

山奥の叔父が暫く下りて来ない。私も縁談中で訪ねてゆけず日々が無為に過ぎる。少壮の士官という相手が冷酷としか映らないのは叔父が頭にあるせいだ。あの狐娘は叔父と情を交わしたのだろうか。苛立つ思考はどうどう巡りに沈み、ある晩猫いらず入りの牡丹餅を作った。小豆は旨く炊けたから狐も喜ぼう。
眠る/髪飾り/夢

眠る/髪飾り/夢

明け方、横の妻はまどろんでいる。枕に波打つ髪の合間に彼女の夢が覗いていた。夢の中の妻は職人で、細かなモザイクタイルを一心に並べている。その模様を見たく、そっと髪を除けた。夢の妻が顔を上げ、ばちりと目が合った途端その姿は霧散し、妻が目覚めた。朝食に出た新しい皿はあのモザイク模様だ。
安心/菊/不安定

安心/菊/不安定

大嵐が去ってみると土地はすっかり駄目になっていた。幸い残った種や苗をかき集め、無事な近所に別れを告げてその地を去った。全財産はリュック一つ分でしかなく、空は抜けるように青い。かねて聞いていた原野は眼前遥かな花畑だ。無くした訳ではない、移ったに過ぎない。地面にぐっと苗の根を埋めた。