小さい花小さい花にある宇宙
通勤のひと足ごとに花笑う
ウイルスをおもてなしせよ春嵐
春の塵コロナも季語になりたいか
花笑う道を選んで出社する
デデポッポウ姿確かめずにおかぬ
君たちはきょうだいですねヒナゲシよ
蚊よ頼む守れソーシャルディスタンス
ヒト以外みんなそろって大連休
意欲停滞あじさいだけをじっと見る
昼下がり夏のカラスは可哀想
猫に気を遣われる日の梅雨曇り
愛国とふ鎖国の中卯の花腐し
大正昭和平成令和おばあちゃん
あじさいは己が天下を誇らない
老いるって多彩なのかな紫陽花よ
見えぬからずっと憶えている彗星
空白く吹雪みたいな夏の雨
柴犬の顔で乗り出す塀のバラ
地元は豪雨あの川溢れるんだねえ
この夏は海に行きたい!(埼玉県)
空中は蚊の国鳥の国雲の国
蝋燭の透き通る時だけの沼
油蝉の真横で暮らす緊張感
あの梅雨は何だったのか油照り
かなぶんの一機墜落枕元
鳥か虫か獣かヒトか夜の声
四階も天空のうち南風
蚊と蚊と蚊ガールズトークする網戸
蚊のお腹カナブンのお腹見る網戸
冷房をお許し願うこの酷暑
セミの声まだ憶えてる夜の耳
かまきりの子が一丁前にかまきり
世界一の馬鹿へかぶされ雲の峰
まだ夏の季語使えそな夜の熱
もう梅雨と言えないのかな豪雨来る
炎帝猛る今年生まれた蚊の不幸
炎天下世界はソーシャルディストピア
虹の出る雨は稀です泥の靴
本当に秋は隣か開いた窓
故郷とは違う花咲く島にいる
声だけで顔は知らない秋の虫
リスのいる庭だ背中に木の実降る
白い靴触りたかった土用波
水棲に戻れと言うか小糠雨
霧雨のなか水中花のような人
龍の気で蛙は潜む山の淵
秋雨や密で秘密な傘とふ字
食事ウンチ食事休みの青虫や
何匹の龍潜んだか今日の淵 ※季語「龍淵に潜む」合わせ
貝殻の音の聞こえぬ歳になる
本当に出てくれたねえ名月よ
落ち込んでいたかったのに天高し
ビー玉をばら撒いたよな鴨の池
どうしても季語になる気のない地震
足先へ命を流す炬燵かな
オリオンのさやかに稔る梢かな
頼むからもう諦めろ冬の蚊よ
チョコレートは薬なるべし冬籠
電柱に冬鷺一羽灯りをり
ラジオ体操あお向きて青より見えず
両の手でかっさばきたし冬の雲
街じゅうの野良を呑み込む炬燵かな
ウイルスの鼓動聴きたし冬籠
古い平屋だが、庭があったので借りている。
猫の額のようでもちゃんと植物は育つと見え、にわか知識で植えたいくばくかのハーブも形になってきたので、どうしようもなく腹が立つ時は、ガラス戸を開けてぼんやり庭を眺めることにしている。
座り込んだ目の高さは、ハーブの森と大差ない。その中に時折、ぼろぼろの人がたたずんでいるのが見える。
私はそれをわるくちの神様と呼んでいる。ひとに嫉妬したり、仕事が上手くいかなかったり、どうしようもなく荒れた気分の時にだけ現れるからだ。
わるくちの神様は何も言わず、眉ひとつ動かないので、何を考えているのか私は知らない。髪も服もぼろぼろのまま、じっと立っているだけだ。新しい服を置いてみたこともあるが、いつも手付かずのまま残されていた。
だから最近の私は毎度、その足元のローズマリーを勝手に摘み、熱湯を注いだだけのお茶にしている。わるくちの神様もそれは飲むので、二人で黙ったまま、そよぐハーブの森を眺めている。
公園で知らないおばあちゃんに声をかけられた。この木に上るのでハシゴを押さえて欲しいという。
手押し車から出した折り畳み式のハシゴをおばあちゃんは危なっかしい足取りで上る。僕は続いて、言われた通りに板切れを、座布団を、寝袋を枝の上へ手渡す。意外な重装備に舌を巻く思いだ。
丹念に角を落とした板切れをおばあちゃんは枝へ渡し、座布団を敷いて腰を下ろす。巻かれた寝袋は肘掛けそっくりだ。
最後に、小さなピアノのような楽器を手渡すと、おばあちゃんはありがとうと微笑んで鍵盤を指で弾いた。澄んだ音がオルゴールに似ている。
楽器はカリンバというそうだ。大昔、亭主と別れた日に買ったの。おばあちゃんは言った。
――世間知らずのくせに生意気だって言うのよ。出てけって言われたから、出てきたわ。
さすがにどうしようかと思ったけどね、閉まりかけの市場でこれを見つけて鳴らしたらどうでも良くなっちゃって、とおばあちゃんは笑う。
頭上でカリンバが鳴る。木の声にも聞こえる。夕暮れ、巣に帰った鳥たちが鳴く声もそんなふうだった。
――その日以来、世界中が私の家なの。外は大好きよ、風がきれいで。
山道に迷い出た先はぽっかり開けた草地だった。
奥の木陰に緋毛氈、古めかしい着物の女たちが野遊びの風情だ。
手招かれるまま私が毛氈へ腰を下ろすや、女の一人が座の中心に独楽を回し、三味線を弾き出す。〽べろべろの神様は、正直な神様よ。
御座敷遊びの歌だ。独楽の倒れた方にいる者が盃の酒を飲み干すのだ、と思う間にぱたりと私を指した独楽を見ると、蛍袋の花だ。
手を叩いて笑う女たちに昼顔を一輪持たされた。なみなみ注がれた酒をぐっと呷ると、驚くような冷気が喉を落ち、口一杯に熱が広がる。くらっと来たところにまた歌が始まり、ぼけた視界の独楽が私を指す。
芙蓉が今度の盃だ。隙間だらけの花は指で抑えて飲み干さねば手を離せない。昼顔より大きいそれを必死で空けると、強烈な蜜の味。
三度目の盃は巨大な山百合、底が尖った花は置くに置けず、腹を括って飲み干すと、芳香で気が遠くなった。
――山の精でしょうな。
独り寝ていた私を見つけた山守の老人は、私の胴乱に横目をくれた。
――次は無いと思った方がいい。
老人の言葉に青ざめる私の腰、胴乱に隠したはずの希少植物が残らず消えていた。
夜、音屋へ行く。入口で年齢性別不詳の店主からヘッドフォンとコーヒーカップを受け取る。奥でコーヒーメーカーが唸る店は小さいが、他に何も置かれていないので狭く感じない。
両側の壁一面に空けられたイヤホンジャックを目でなぞる。何千個あるか知れないジャックからは、それぞれ違う音がする。ジャズの鳴る雨の喫茶店。熱帯雨林に降る雨。砂漠のトカゲの足音。南米の路上のサルサ。恒星のいろどりを再現したアサバスカインディアンの歌。
律儀に端から一つずつ試していた頃もあったが、どのみちコーヒーを取る拍子に見失うので早晩やめにした。
床すれすれのジャックのひとつへ適当に端子を挿す。こおう、こおうう、と深く籠るような音。
――何すか、この音。
――ん、ダイオウイカ。太平洋のね、水深六百メートルくらいかな? 水吹いて泳いでる音。
音を聴きもせず、店主は事もなげに答える。たぶんこの店のジャックを全部覚えているのだ。
床暖房のきいたフローリングに座り込み、熱いコーヒーをすすりながら目を閉じる。イカの呼吸音の中にヒレ音が聴こえないか耳を澄ます。遠くでしゅっと鳴るのは他の魚か仲間のイカか。
店内を回り、三つ、四つ、ジャックを替える。真冬の灯台に押し寄せる波頭、未知の鉱石に滴る水滴、フラメンコの鋭い靴音。なるたけあちこち歩いて音を探しな、とは店主の弁だ。人間、ほっといたら手の届く範囲でしか聴かなくなるんだから。
それに倣い、脚立を借りて天井近くのジャックを選んだ。犬のような遠吠えがいくつも聴こえる。
――北極の狼たちだよ。狼犬が二匹いるのが分かるかい。
そういう店主が自分のヘッドフォンを出し、端子をこちらに示した。私はヘッドフォンを外し、店主の座る車椅子を受付から動かす。促されるまま右側の壁に寄せ、店主が指示した天井近くのジャックに端子を挿してやる。
――何の音すか。
――渋谷のスクランブル交差点。今年は渡ってみたいもんだね。
店の代金は音で支払うこともできるから、帰り際に店主へ声をかけた。
――うちの地元の唐揚げ屋、いい音するんすよ。
――ああ、あれは腹が減るね。こないだ空いたジャックに入れとこう。
――どこに入るんすか。
――自分で探しな。
――そこにあった音、どうなったんすか。
――それも自分で探しな。
探せた試しはない。
狼の少年たちが長距離列車で旅している。十人ばかりが固まってわいわいやっている姿は人間の子と違わないが、時々仲間うちで鼻をくっ付け合っているのでそれと知れる。
頑なに帽子もコートも取ろうとしないのは耳やら尻尾を隠しているせいで、狼は狐よりよほど化けるのが下手なのだ。近くにさりげなく座る中年男二人は恐らく用心棒の狐たちで、こちらはさすが人間としか見えない。
数々の保護策も空しく狼は減る一方で、最後の手として極北にあるという狼の国へ全ての狼が集まることとなった。少年たちも恐らく、自国からそこへ向かう途上だろう。
汽車は北上を続け、ここ数日は陽を見ない。地を覆う雪は闇の中ですら白く、その上を風ばかりがうねる。冷たい窓に鼻を付け、一番幼い狼が外を見ていたが、飽きたらしくデッキへとことこ歩いてゆく。兄らしき少年は席で眠っており、他の者はお喋りに興じて気づかない。
私がデッキへ出ると、案の定ちび狼は一人きりで遊んでいた。危ないよ。声をかけると、やっと警戒する気になったか表情が強ばる。周囲に誰もいないのを確かめ、私は帽子を取る。
――なに、心配ないよ。おじさんも狼なのさ。
私の耳を見てすっかり安心したのか、ちび狼は真似して帽子を取った。紛れもない狼の両耳がぴんと突っ立っている。
――おじちゃんも狼の国に行くの?
――そうだよ、坊やたちと一緒さ。だから感心しないね、こんなところで一人になるなんて。狼の国に着く前に悪い奴に連れて行かれちゃうよ。
狼が数を減らしたのには理由がある。ふかふかの毛皮、闇を見通す目、美しい牙。そして今や、数が少ないというそのこと自体に大きな価値があった。
用心棒がついていても、国に着くまで安心はできない。この汽車の中にだって狼を狙う者が紛れ込み、警備の目をくぐらないとも限らない。
この私のように。
――ぼく、怖くないよ。ちょっとオーロラの匂い、嗅ぎに来ただけだもん。
――そうかい。じゃ、窓をごらん。そろそろ見える頃合いだ。
私はさりげなくちび狼を抱き上げた。夜空にはオーロラが踊り始め、あちこちの席から歓声が上がる。それに紛れ、隣の車両に続くドアへ手をかけた。そこには仲間が待ち受けており、狼を捕まえ次第、次の駅で降りる手筈になっている。
私は人間に化けた狼ではない。
人間に化けた狼に化けた狐だ。
途端、背後でばたんとドアの音。ちび狼を抱く腕が何かに喰らいつかれた。悲鳴を上げた私の腕からちび狼がさっと引ったくられる。
よろめきながら顔を上げると、少年のひとりが仁王立ちになっている。さっき眠っていた兄だ。両腕で弟を抱え込む姿こそ人間だが、鼻筋にしわを寄せて歯を剥き出す顔はいっぱし唸る狼だ。
その形相に私の両耳が思わず後ろへ寝たが、なんのなんの、化け比べならこちらに分がある。
元の車両へ駆け戻ろうとする兄弟の背中へ、余裕たっぷりに声をかけてやった。
――ま、確かにこの汽車は狼の国行きだろうがね。君ら二人は入れてもらえるものかね?
少年の足がぎくりと止まった。
――匂いで分かったが、いやはや狼に化けることにかけちゃ君らは私以上の上手だ。狼犬が狼のふりして、移住枠を取るなんて。
狼犬もまた、狼と同じ理由で狙われる。ただし、狼の国へ呼ばれているのはあくまで狼。
狼の楽園たるあの国も、狼犬まで受け入れられるほど広くはないのだ。
――元の国で胸を張って生きていくほうがよっぽど楽じゃないかね。なに、多少の不自由はあるだろうが、私に任せれば悪いようにはしない。
狼犬の兄は、力無く床に目を落としている。
――君らがあの国に入ることで、向こうにいる君の友達の誰かが落っこちるかもしれない。
私の一押しでついに立ちすくんだ狼犬のそばで、ドアがぱっと開く。
――お前ら、狼犬ってほんとか。
他の少年たちだ。やはり二人の素性を知らなかったと見える彼らへ、私は大げさに肩をすくめた。
――どうしよう。お前ら、入管から先へは行けないぜ。
どうもこうも、その通りだ。今後の稼ぎのためにも騒ぎにしたくなかったが、狼犬二人手に入れば上出来だ。万策尽きた少年たちを後に、私は二人を引っ立てて仲間の車両へ移ろうとした。
が、そこからどたんばたん物音がする。はっとガラス越しに中を覗くと、なんと仲間が一網打尽になっている。それを囲む乗客たちは……
狼、狼、狼。いや違う、残らず狼犬だ。
――狼狩りが出ると聞いてね、張ってたんだよ。
ぎくりと振り返ると、狐の用心棒二人が立っている。
――坊やたち、手癖の悪い同胞で済まないね。さあて御同輩、この汽車は特別仕立てでな。俺たち二人とあんたらが狐、それからこの子ら狼以外は全員、狼犬が乗り組んでるのさ。
狼の、狼犬の、何対もの目が突き刺さる。
――確かに狼犬はあの国へは行けない。だからこの汽車に住んで、狼たちを送りながら自分たちの身も守っているのさ。
狐の用心棒は、狼犬の兄の肩へ手を置いた。
――君らのことは俺たちも気の毒に思うよ。ここにおいで。座席はあるし、こういう奴らをとっちめる人手も要る。あの国へはやれないが、化け方ならいくらでも教えてやろう。
少年たちのリーダーと思しい狼が、兄弟へ顔を寄せる。
――ごめんな。俺たち先に行くけど、きっとあの国の法律を変えて、お前らも住めるようにする。だから、もう少しだけ頑張ってくれ。
狼と狼犬が鼻をくっ付ける。その仕草は狼同士と変わりなく、私の目からは狐の仕草ともよく似ていた。
私と仲間は、次の駅で降ろされた。頬を切る風の中、警備隊へ引き渡されながら、私は駅を出る汽車を目で追った。
夜目の効く我々に北限の常夜は白い。その最果ての国へ、一続きの灯は流れてゆく。いくつもの遠吠えを聞いた。狼か、狼犬か。その違いに意味は無かろう。
全天を横切ってオーロラ。匂いがしないかと立てた鼻に冷気が刺さり、大きなくしゃみが出た。
(了)
女子生徒が校内に小さなキャンディ缶を持ち込んだので注意したところ、中身は大小様々な石ころだった。部活動の一環だという。彼女は帰宅部のはずだが。
活動を見せるというのでついて行くと、図書室のカウンターの隅に彼女は例の小石を並べ始めた。ためつすがめつの末に完成した石の並びを言われるままカウンターすれすれの高さから覗くと、奥の窓の光をうけたそれはまるで夕暮れの街だ。その「風景」を彼女はスマホの写真に収め、SNSに上げる。アカウント名「国々」。この「部員」たちの共同運営といい、似たような写真が何枚も何枚も投稿されていた。貝殻の群島。木の葉と実の森。布切れとコルクの部屋。
魅入る私に、先生こういうの好きでしょ、顧問になってよと彼女が言う。ばれていたか、ポケットの中のシャンパンチェアが。
頷くと中庭へ案内された。花壇の隅に全部員が一つずつ「物」を置いた「街」があり、そこへ何かを置くのが入部の証という。覗いて息を呑んだ。どんぐり、鉱石、陶器片に貝殻、数知れぬがらくたが数知れぬ輝きで並び、一つの巨大な街を成す。
その一隅に、私は恭しさをもって自作のシャンパンチェアを据える。
広告会社は悪魔と契約し、必ず視聴者の目に入るCMを作って貰った。悪魔の作ったホラー映画のCMをオンエア中に見逃した視聴者はTVを消した後、カーテンの、白壁の、布団の上に幽霊を幻視した。大クレームを受けた悪魔は食品のCMを作り、見逃した視聴者はカーテンの、白壁の、布団の上にアイスを幻視……