山道に迷い出た先はぽっかり開けた草地だった。
奥の木陰に緋毛氈、古めかしい着物の女たちが野遊びの風情だ。
手招かれるまま私が毛氈へ腰を下ろすや、女の一人が座の中心に独楽を回し、三味線を弾き出す。〽べろべろの神様は、正直な神様よ。
御座敷遊びの歌だ。独楽の倒れた方にいる者が盃の酒を飲み干すのだ、と思う間にぱたりと私を指した独楽を見ると、蛍袋の花だ。
手を叩いて笑う女たちに昼顔を一輪持たされた。なみなみ注がれた酒をぐっと呷ると、驚くような冷気が喉を落ち、口一杯に熱が広がる。くらっと来たところにまた歌が始まり、ぼけた視界の独楽が私を指す。
芙蓉が今度の盃だ。隙間だらけの花は指で抑えて飲み干さねば手を離せない。昼顔より大きいそれを必死で空けると、強烈な蜜の味。
三度目の盃は巨大な山百合、底が尖った花は置くに置けず、腹を括って飲み干すと、芳香で気が遠くなった。
――山の精でしょうな。
独り寝ていた私を見つけた山守の老人は、私の胴乱に横目をくれた。
――次は無いと思った方がいい。
老人の言葉に青ざめる私の腰、胴乱に隠したはずの希少植物が残らず消えていた。