小噺帖

極小一次創作。よそで作った三題噺や都々逸の一時的集積所。
極小一次創作。よそで作った三題噺や都々逸の一時的集積所。
036:きょうだい ※蔵出し

036:きょうだい ※蔵出し

 父を破産に追いやり一家に辛酸を舐めさせた市長に復讐すべく、兄弟は市庁舎へ向かっていた。午後四時に出てくる市長の後をつけて亡き者にし、そのまま逃げる手はずである。
 が、最寄り駅に降りたところで目の前の中年リーマンがひっくり返って痙攣を始めた。やむなく兄が軍隊で覚えた心臓マッサージを試み、弟がAEDへ走りながら携帯で1、1、9。救急車が駆けつけた時には適切な救命措置で蘇生した患者を残し「勇敢な市民」は消えていた。
 思わぬ寄り道に時間をくった兄弟、商店街に入ったところで銀行から出てきた強盗二人と鉢合わせ。兄がとっさに一人を叩きのめす間に逃げる車のナンバーを弟が記憶、強盗の鼻血でアスファルトにきっちり書きつけて再びトンズラ。
 さらに時間のおしてきた兄弟、道路に転がったサッカーボールにつまずいた拍子に持ち主の子供へパスし、信号点滅の横断歩道に駆け込んでうっかりぶつかった老婆をトラックの軌道から救い、火事のビルから飛び降りた猫十匹を頭で受け止め、艱難辛苦の末ついに市庁舎へたどり着いた。
 が、その場は何があったか黒山の人だかり。ようやく入った最前列は警察のバリケードで封鎖され、手錠姿の市長がまさに連行されてゆくところ。隣のTVレポーターが読み上げるには「市長、汚職で逮捕」。
 やがてパトカーが人波に消え、野次馬が散った後には呆然と佇む兄弟だけが残された。
 と、足元ですすり泣く小さな声、見下ろせば幼稚園ほどの女の子がうずくまって泣いていた。顔を見合わせる二人、父一人娘一人の市長の子煩悩ぶりは有名だったのだ。こんな小さい子泣かすなよ糞親父。ため息ついたものの一歩ずれれば危うく自分たちが泣かす側だったことを思い出し、ついでに昔自分たちを泣かした父親のことも思い出し、まあ吉牛でも行こうやと幼女の手を引いて退場。

 ほどなく彼ら兄弟をめぐり「未成年者誘拐犯」と「商店街のヒーロー」で世論が真っ二つに割れ、当の幼女が「優しいおじちゃんたち」に完全に懐いたことで事態がさらに紛糾したのはさておく。
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