小噺帖

極小一次創作。よそで作った三題噺や都々逸の一時的集積所。
極小一次創作。よそで作った三題噺や都々逸の一時的集積所。
蔵出し3(4件)

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013:深夜番組

「であい系」と称されるサイトも実は数種類に細分化される。最も一般的な「出会い系」は無論人間同士の利用が前提で、「出逢い系」になればより熱い逢瀬が期待できる。「出合い系」は動物や物との触れ合いを望む者が密かに訪れるが、稀に人間を求める人外の何がしかが紛れ込むとも言われる。最後の「出遭い系」についての詳細はわからない。これまでの利用者がことごとく、戻ってこないためだ。

015:ニューロン

人間の輪廻転生の行き先は未来とは限らない。過去へと生まれ変わったうちでごくたまに元の記憶を持ったままの者こそが、予言者としての素質を持つ。が、そこは不完全な人間のこと。予言者同士の意見がぶつかるのはつまり、どちらか(あるいは両方)が記憶違いをしているのだ。

097:アスファルト

数ある蝶の中にはメモ蝶という連中がおり、捕まえて本を開くように翅を開けば中の文字が読めるのだ。そう教えてくれたのは隣家の男の子だが、彼は勉強がすこぶる苦手で、中学に上がった時にも漢字があまり読めなかった。それを指摘すると、彼らの文字を先に覚えたせいだという。嘘だと思うなら、地面じゃないとこに生えてる花にくる蝶を、どれでもいいから一匹捕まえてみなよ。彼はにやっと笑いながら言った。
ベランダのプランターとか、アスファルトの割れたとことか、塀の隙間とか、そんなとこに離れ小島みたいに生えた草花同士が寂しがらないように、奴らは交換日記代りになってやってるのさ。
そんなことを思い出したのは、ビルの屋上庭園で翅を休めていた蝶を見たからだ。ゆっくりと開いたり閉じたりを繰り返す翅の内側に、確かに文字のようなものが見えたのだ。
お約束通り学校卒業後に出てきた都会は砂漠のようで、いつも休憩時間にオフィス街を一人見下ろしている。その上空へふっと舞い上がった蝶が風に運ばれ、眼下の路地裏へ降りる。それを追った視線が、路地裏の小さな公園から蝶を見上げる男性の目と合った。間違いない。きっと文字を読んだのだろう、ずいぶん懐かしい目。

100:貴方というひと

かつて私は生みの親に二度名前を奪われた。
一度目は彼がネットデビューしたとき。ハンドルネームを決める必要に駆られ、彼は自作の物語の登場人物だった私の名前を使った。新しい名がつくまでのひと月あまり、私はまったくの名無しのまま、幽霊のように過ごしたものだ。実際、私のようにいまだ文字にも絵にもなっておらず誰かの頭の中にいるだけのキャラクターにおいて、名前がないことは存在しないこととほぼ変わらない。
二度目は彼が別の物語を作ったとき。彼の中に新しい世界、新しい登場人物が出来たときから恐れてはいたが、案の定彼は主人公に私の名を与え、私はまたしても別の名をあてがわれた。
私のものだった名を持つ主人公は、その世界と共にどんどん育ち、文章ファイル上にその物語を進めてゆく。私のファイルはといえばいつまでもメモのまま、ドライブの下方へ下方へと追いやられていった。いつしかリスト上には新たなファイル名が地層のように積み重なり、私はこのまま化石になってゆくのだと思われた。
あるとき彼のPCに侵入したウィルスが、その堆積に微かな隙間を空けた。そこから私はあっという間に引っ張り出され、気付くと果てしないオンライン上に放り出されていた。その後無数の目が私を読み、幾度か複製もされた。
こののち生みの親の中で私の物語が進むことはもうないだろう。が、少なくとも、この名を奪われることももうないはずだ。
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