カーテン/餌付け/迷宮
巨大なシャチが夜のビル街を回遊する。ひとけのない都市は石の灰色で、シャチが時折覗く窓はみな暗い。ビルの谷底にぽつんと点るのは旧い家の灯で、暮らすのはおばあちゃん一人だ。おばあちゃんが猫三匹を寝かしつける布団の横の柱には越冬中のテントウムシたちが固まり、猫と同じ枯葉の夢を見ている。
深海/窓際/災い転じて
シャチを知っているのは猫とテントウムシの他はおばあちゃんだけで、おばあちゃんはシャチを人間の次の世のさきぶれと考えている。ほどなく、おばあちゃんが電気を消した屋根の上をシャチが泰然と行き過ぎる。じき暖かくなればおばあちゃんはテントウムシたちを窓から日なたの側に出してやるつもりだ。