小噺帖

小噺帖

極小一次創作。よそで作った三題噺や都々逸の一時的集積所。
極小一次創作。よそで作った三題噺や都々逸の一時的集積所。
かくれんぼ/いじわる/癖

かくれんぼ/いじわる/癖

敗戦国の武装解除は今や帝国の難題だ。敵の忍者のほとんどが投降せず抵抗を続けているのだ。敵国は小さいが強力な独裁体制で、擁する忍者には少年も数多い。という事の意味を帝国の忍者は思い知っていた。今追う忍者二人はどう見ても自分の歳の半分だが腕はすさまじい。キャリアが自分と違わないのだ。
秘密基地への旅

秘密基地への旅

 そのドロイドが入管でとっ捕まった理由は、ボディとAIの渡航歴のズレが露呈したためだ。巧妙に偽装されていたものの、頭脳たるAIは製造後半年で今回が初渡航、他方ボディは製造後二年で廻った国や地域が名だたる紛争国や未承認地域を網羅しており、しかもいずれも先進国との往復である。調べた結果、ひとつのボディを複数のAIが頭脳チップ入替えの形で共有していた。正確には、先進国から高飛びしたいドロイドが頭脳だけボディに乗せて紛争国・未承認地域へ渡り、現地のボディへ頭脳を乗り換える。そして紛争国・未承認地域から密出国したい別のドロイドが同様に頭脳だけボディに乗せて先進国へ渡り、現地のボディへ乗り換える。こうやってボディを船のようにリレーしてゆくのだった。この手口を誰がいつ始めたのか、他に同様のボディがあるのか、黒幕がいるのかは、後ろ暗い業界の常として永久に不明だろう。ただ入管職員が見たのは、人間の難民(という単語をこの国のオフィシャルはまず使わない)と同様に思いつめた表情をつくるドロイドと、その全身の隙間という隙間に詰め込まれた、恐らくは同行の脱出希望者と思しき膨大な頭脳チップたちだ。
#秘密基地への旅

#秘密基地への旅

 森の奥の小屋は半地下だ。地面から緩やかにつながる土の屋根は草むして、外からは丘としか思われない。よほど寄らねば叢に隠された扉には気づかぬし、まして中の微かな話し声は耳に留まらない。
 それが若い男女で、女が持参した材料と帳面を押しつけて調理をせがんでいるとあれば、睦まじい恋人かきょうだいと思うところだが、客人の娘の顔面には引き裂いたような古傷が走り、薄汚れた着物のベルトに差した蛇体と呼ばれる鉄鞭には血の跡が残る。小屋の主たる若者も小柄でにこやかと思いきや、簡素な衣服の下の身体は細く締まりきっている。

 若者は単独行の山駆け忍びだ。峰を越え渓を渡り道なき道を辿り、人や物や報せを運ぶ。主人は持たぬがその時々の雇主の契約と期待を裏切ったことはなく、その時々の敵方の追跡と妨害は実ったためしがない。今日も深い森を二十里抜けて北の国の密書を届けてきたところだ。
 その大仕事に洟も引っかけず料理をせがむ娘は帝国雇われの戦忍びだ。まつろわぬ街街に入り込んでは警備の弱点を暴き、すぐさま軍を引き込む手口だ。ために滅んだ街は十指に余るどころでなく、犠牲者はもとより数える気もない。
 娘の持ってくる材料と帳面は、直前に滅ぼした街で食べた郷土料理のものだ。こうして味と材料を覚え、料理の得意な若者に作らせる。
 もうこの世で彼女の舌と帳面にしか残っていない料理たちだが、それすら彼女の記憶と彼の推測による不完全なモドキであり、さらには記録されぬまま消えていった料理のほうが圧倒的に多い。そのことは二人の一抹の悲しみだ。なにせ二人して、食べるのが唯一の楽しみなのだ。
 とは言え二人の共通点はそれくらいで、特段の仲良しでも味方でもない。いちおう同郷でもあるが、その故郷も思い出にならぬほど遠い昔だ。

 故郷の村は二人が幼い頃の戦で消えた。どこかの軍が村人をみな捕らえて広場で数組に分け、最初の組が穴を掘らされ中へ座らされ、そこへ次の組が土をかけてその上を歩きまた穴を掘り、その中へ座らされ……最後の穴を軍が埋めてその上を歩き去り、誰もいなくなるのを、どうしてか藪に逃げおおせた二人は黙って見ていた。
 村でも別に知り合いでない二人だったから、その後もばらばらに育った。生き残りの村人に捨てられた女の子は戦忍びに拾われ、売られて逃げた男の子は山駈け忍びの集落に迷い込み、今に至る。
 女の子が与えられた蛇体という鉄鞭は扱いが難しく、慣れぬうちは自分の顔を裂きもしたが、最初の街を滅ぼす頃には手に馴染み、非常時に大層役立っている。他方男の子は山々や敵陣に放り込まれ、遭難や脱出を繰り返した。その過程で野草やら昆虫やら木の実木の芽茸、死んだ人間までさばいて食べたが、今日まで食中りくらいで祟りはない。

 ともあれ帳面を膨らますばかりで料理の腕を振るう機会のない娘、包丁遣いは鮮やかだが食材に恵まれぬ若者はとある現場で再会し、以来こうして時折会っている。
 前述の通り、意気投合でなく利害一致の二人だから、それ以上助け合うことはない。今回の料理は若者が直前に旅立った北の国の街のものだし、運んだ密書の中身は帝国軍に対する大規模反乱の檄文だ。が、香り高いシチューをすする二人は気にも留めないし、戦そのものが二人には無意味だ。
 畢竟、相手の身体にもお互い興味はない。娘は無粋な男共を蛇体でぶち砕いてきたし、若者は自分を強姦した輩を今のところ全員消している。火の粉は自力で払う心得だ。万一、相手が殺されでもすれば、殺した奴をどんな手を使ってでも殺すだろうが、その晩身を寄せ合って眠るのも単に小屋が狭いからだ。故郷の味は夢にも出ない。
うたよみん 俳句・短歌・琉歌まとめ2020

うたよみん 俳句・短歌・琉歌まとめ2020

俳句
この星も星座の一部冬菜切る

短歌
自粛要請直前 週末の前に終末来てしまいMIDSOMMARは君と貸切
昭和生まれが百億回は言っている「自粛ばかりでクルナウィルスだ!」
ネオワイズ彗星 彗星の時間にスマホ見ちゃってて空が曇っていて安堵する
自己実現できる奴らは滅びよと思う本屋の背表紙見渡し

琉歌(八八八六)
戦争を知らず 沖縄を知らず ニッポンを知らぬ 大人である
うたよみん 都々逸まとめ

うたよみん 都々逸まとめ

2018
地面のカナブン踏まずに避けて死にたい夜道をまだ歩く
ここから他にはどこへも行けず野花の写真が増えていく
覆って覆って覆った嘘がラナンキュラスの花になる
空の写真をさかさに置いて雲のみなもへ落ちてみる
胸の奥底ざわめく森をついぞ飼い慣らせずにいる
この頃何でも気に入らなくてきっと愚かになっている
生きるつもりはまだまだあるか? 穴の底から見える月
転んだ大の字姿のまんま空の青さを身に受ける
地獄三首 君は立ってる地獄の中に割れた大地が熱を吹く
〇〇〇〇 花は揺れてるこの世の果てにここと繋がる空は青
〇〇〇〇 歌が聞こえる今際の際にたゆたう血の海あたたかい
令和元年台風第19号 うねるサイレン呑む虎落笛空を巨大な龍がゆく
ほんとに食べたいのは何だっけトレーに冷えてくハンバーガー
死んでよかったねえおじいちゃん見なくて済んだね沈む家

2019
ヒトもやがては木になれるかな百万年後の新世界
ほんとに神様そう言ったのか戦火に焦げゆく世界地図
独りになりたい独りは嫌だほんとはおんなじ意味だった
下がってアガって下がって下がり上げ方分からず這っている
自分で自分に向けてる毒の回りが早いな? 早い 早い 早
いまだ人生死んではないな目線一ミリ上を向く
しょせん何者でもない僕だ澱も鎧も捨てろ 捨てろ 捨てろ
転職活動開始 そうか私(あなた)はもう行くんだな靴紐ゆっくり締め直す
〇〇〇〇〇〇 私無しでも潰れやしまいそうだやっぱり出てゆこう
鳥もそんなに自由じゃないねそっとオフするSNS
ビルも道路もみな呑まれゆけうねる緑が渦を巻く
そろっと後ろへ引っ込むようにぽつぽつ消してくアカウント
僕のアパート隣りはタヌキ下はイノシシ上はクマ

2020 コロナ禍
正月気分が体を抜けて便座へ落ちてく休み明け
雪の靴音かぶせるように雪が雪の音たてて降る
コロナ全国休校ニュース親が殺した子のニュース
人がそういうものではなくて彼女がそういう人なだけ
停滞ではない冬眠なのだ壁の向こうは春の風
無理と言うなとよく云うけれど僕はあんたがいなきゃ無理
たった一人の散歩の道は不要不急の花ざかり
マスク尻目にラーメン店へ並ぶ夢見る自粛中
雪が桜が病魔がふぶくレジャーシートはミモザの絵
その後の世界を知らずに去ったキミはほんとに幸せだ
ヒトの内部でウイルスたちも自粛している春嵐
「病気うつすといけないからさ」ほんとは怖くて辞退した
必要火急のあなたに会いに越える検問バリケード
ランディドノー ヒト無き街路のイヌネコハトのフンに加わるヤギのフン
昨日無かった野花が咲いたという天下の一大事
ばあちゃん外国知ってんだって「昔は『旅券』があってねえ……」
耐えて根付いていざ隙あらば伸びて這い出て空を向く
人類全員留守番させてコロナは世界を旅行中
散歩で作ってゆく「ここらではここにしかない花」の地図
カーテン通して朝陽は白くキミの居ない世界が始まってしまった
ミサイル 忘れないでね私のことも願い託した飛翔体
〇〇〇〇 この頃だーれも遊んでくれずノックみたいな飛翔体
産んで増やして地に満ちてみた神は褒めるかウイルスを
死別は他人事 その足元を軽々すくった生き別れ
ポストコロナと第二波そろい風も今夜は動かない
疲れましたよSNSに 吐き出す所もSNS
東京アラート巨大に赤く風も今夜は動かない
最小動作でゴキブリ叩くなるたけ怖がらせないよう
夜逃げみたいに荷物を詰めるステイホームの盆休み
いつまで怖がってりゃいいのかな道の向こうは花盛り
コロナに熱波が追い討ちかけてヒトじゃ世界は手に負えぬ
置かれた場所にはまだ飽き足らず花は遠くへ種飛ばす

2021
モノモノモノモノ溢れる部屋のどこかで私が死んでいく
震災十年 みんな誰かの誰かであった2011.3.11(ニイマルイチイチサンイチイチ)
ベッド/マシュマロ/八重歯

ベッド/マシュマロ/八重歯

久々によく分からない物を拾った。今回のよく分からない物は白く丸々太ってガラスのように固い。実は他にもヨタカと亀の中間くらいの声で鳴くよく分からない物と細長くて夕方頃に尖るよく分からない物を持っているのだが、ベッドの下に三つとも置いておいたら冬曇りの明け方にそっとコーラスしていた。
秘密基地への旅

秘密基地への旅

 車必須の山道という立地のためそのカフェは繁盛している。
 カウンター3席だけの店内は晴れた休日など満席だが、大方の客は持ち帰りのコーヒーと自家製焼菓子を片手にすぐ外の林をぶらつく習いだった。
 若いマスターはスポーツマンを思わせる外見ながら穏やかで親しみやすい。コーヒーも菓子も美味く、レジ横にはおりおり野花など飾っている。
 通るたび店に寄るのが私の習慣だ。お巡りさんご苦労様です。笑顔のマスターからコーヒー二杯受け取り、私は車に乗り込んだ。運転席の部下に囁く。
「あのマスター、絶対に何かある」

 定休日、天気は絶好の雨。店の奥の住居側からそろりと出たのはマスター。服はカフェエプロンでなく迷彩柄の雨具。
 その中は行動食と「荷物」入りのバックパック、ランニングウェアと山用シューズ。
 周囲の無人を確かめ、彼は林へ踏み出した。
 客を装った仲間から「荷物」を受け取り山向こうへ密かに渡す闇トレイルランナー。それが本職だ。店に飾る野花が請負可能の印。山中の道なき道こそ彼の庭だ。
 梢から降る水音。踏みしめた緑の香が肺を満たす。彼は大きく息を吐き、けぶる木々の間を見据えた。
俳句てふてふ 2020年度まとめ

俳句てふてふ 2020年度まとめ

小さい花小さい花にある宇宙
通勤のひと足ごとに花笑う
ウイルスをおもてなしせよ春嵐
春の塵コロナも季語になりたいか
花笑う道を選んで出社する
デデポッポウ姿確かめずにおかぬ
君たちはきょうだいですねヒナゲシよ

蚊よ頼む守れソーシャルディスタンス
ヒト以外みんなそろって大連休
意欲停滞あじさいだけをじっと見る
昼下がり夏のカラスは可哀想
猫に気を遣われる日の梅雨曇り
愛国とふ鎖国の中卯の花腐し
大正昭和平成令和おばあちゃん
あじさいは己が天下を誇らない
老いるって多彩なのかな紫陽花よ
見えぬからずっと憶えている彗星
空白く吹雪みたいな夏の雨
柴犬の顔で乗り出す塀のバラ
地元は豪雨あの川溢れるんだねえ
この夏は海に行きたい!(埼玉県)
空中は蚊の国鳥の国雲の国
蝋燭の透き通る時だけの沼
油蝉の真横で暮らす緊張感
あの梅雨は何だったのか油照り
かなぶんの一機墜落枕元
鳥か虫か獣かヒトか夜の声
四階も天空のうち南風
蚊と蚊と蚊ガールズトークする網戸
蚊のお腹カナブンのお腹見る網戸
冷房をお許し願うこの酷暑
セミの声まだ憶えてる夜の耳
かまきりの子が一丁前にかまきり
世界一の馬鹿へかぶされ雲の峰
まだ夏の季語使えそな夜の熱
もう梅雨と言えないのかな豪雨来る
炎帝猛る今年生まれた蚊の不幸
炎天下世界はソーシャルディストピア
虹の出る雨は稀です泥の靴

本当に秋は隣か開いた窓
故郷とは違う花咲く島にいる
声だけで顔は知らない秋の虫
リスのいる庭だ背中に木の実降る
白い靴触りたかった土用波
水棲に戻れと言うか小糠雨
霧雨のなか水中花のような人
龍の気で蛙は潜む山の淵
秋雨や密で秘密な傘とふ字
食事ウンチ食事休みの青虫や
何匹の龍潜んだか今日の淵 ※季語「龍淵に潜む」合わせ
貝殻の音の聞こえぬ歳になる
本当に出てくれたねえ名月よ
落ち込んでいたかったのに天高し
ビー玉をばら撒いたよな鴨の池
どうしても季語になる気のない地震

足先へ命を流す炬燵かな
オリオンのさやかに稔る梢かな
頼むからもう諦めろ冬の蚊よ
チョコレートは薬なるべし冬籠
電柱に冬鷺一羽灯りをり
ラジオ体操あお向きて青より見えず
両の手でかっさばきたし冬の雲
街じゅうの野良を呑み込む炬燵かな
ウイルスの鼓動聴きたし冬籠
秘密基地への旅

秘密基地への旅

 古い平屋だが、庭があったので借りている。
 猫の額のようでもちゃんと植物は育つと見え、にわか知識で植えたいくばくかのハーブも形になってきたので、どうしようもなく腹が立つ時は、ガラス戸を開けてぼんやり庭を眺めることにしている。
 座り込んだ目の高さは、ハーブの森と大差ない。その中に時折、ぼろぼろの人がたたずんでいるのが見える。
 私はそれをわるくちの神様と呼んでいる。ひとに嫉妬したり、仕事が上手くいかなかったり、どうしようもなく荒れた気分の時にだけ現れるからだ。
 わるくちの神様は何も言わず、眉ひとつ動かないので、何を考えているのか私は知らない。髪も服もぼろぼろのまま、じっと立っているだけだ。新しい服を置いてみたこともあるが、いつも手付かずのまま残されていた。
 だから最近の私は毎度、その足元のローズマリーを勝手に摘み、熱湯を注いだだけのお茶にしている。わるくちの神様もそれは飲むので、二人で黙ったまま、そよぐハーブの森を眺めている。
NEW ENTRIES
072:喫水線(06.05)
033:白鷺(05.30)
制服/血清/数式(05.26)
051:携帯電話(05.16)
俳句(01.06)
掌編(01.05)
029:デルタ(12.03)
066:666(12.01)
菓子三題噺9(09.13)
菓子三題噺8(09.13)
TAGS
お題 もらったお題 三題噺 掌編 短歌 短編 都々逸 俳句 琉歌
ARCHIVES
LINKS
RSS
RSS